発達障害のある子どもたちへの最適な教育とは?学校ではどんな支援が受けられる?
発達障害に対する理解は年々広まっています。2016年には障害者差別解消法が施行され、学校においても、障害のある子もない子も平等に学べるよう「合理的配慮」を行うことが義務化されました。
一方で、学校現場では慢性的な人手不足の状況が続いています。支援の必要な子どもに先生が掛かりっきりになることで、他の子どもたちに十分に目を配ることが出来なくなってしまうといった板挟みの状況が全国の学校で生じています。
このような現状を解決するために、文部科学省は、特別支援に関する専任の先生(特別支援コーディネーター)を置くことや、定期的に校内委員会を開催すること、さらに必要に応じて外部の専門家と連携することなどを方針として示しています。
発達障害のお子さまをお持ちの保護者さまは、学校でどのような支援や配慮が受けられるのか、どこまで対応を求めて良いのか悩まれていることと思います。
そこでこの記事では、発達障害を取り巻く法律の変遷や国としての方針、実際の学校現場での対応などについて詳しく解説していきます。
長年にわたり発達障害のお子さまに携わってきたプロ家庭教師ならではの視点で解説していきますので、ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
▼目次
発達障害者支援法と学校教育
2022年に実施された文部科学省の調査では、発達障害などで特別な配慮が必要とされる子どもは、通常学級におよそ8.8%の割合で在籍しているとされています(通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について:文部科学省 (mext.go.jp))。
前回行われた2012年の調査では、通常学級に在籍する支援な必要な子どもの割合は約6.5%とされており、10年間で2ポイント以上も増加しています。要因としては、社会全体の考え方が変わり、グレーゾーンの子どもたちまで細かに配慮されるようになったことや、発達障害について知識のある先生が増えたことなど、様々なものが考えられますが、いずれにせよ、学校現場においてはこれまで以上に丁寧な支援や配慮が求められていることがわかります。
この調査は、支援を必要とする子どもたちの実態を明らかにし、国としての今後の教育の方針を検討するために実施されました。発達障害の方への支援について、政府は課題意識を持って取り組んでおり、この調査以外にも様々な関連法の施行や改正が行われています。
まず、2005年には、それまで福祉の狭間で取り残されていた発達障害について定義を明確にし、福祉的な支援を受けられるようにするために、発達障害者支援法が施行されました。
発達障害者支援法は、発達障害の早期発見や発達障害者の自立、社会参加に対する支援について初めて明文化された法律であり、現在各都道府県・指定都市に設置されている発達支援センターも、この発達障害者支援法で掲げられた方針を元に作られています。(参考:発達障害者支援法 | e-Gov法令検索)
さらに2014年の障害者権利条約の批准に伴い、2016年には発達障害者支援法の大幅な改正が行われました。乳幼児期から高齢期まで切れ目のない支援や、教育・福祉・医療・労働など多分野にわたる連携について一層の推進が図られるとともに、教育に関しては、個別支援計画・指導計画の作成やいじめ防止対策、福祉機関との連携といった支援体制の整備推進について定められました。
教育現場では、それまで一部の学校に限られていた特別支援教育が、2007年度からは全ての学校で実施されることになり、2017年度からは通級指導の先生が10年かけて基礎定数化されることになりました。
基礎定数化とは、「必ず先生を配置しなければならない」ということであり、それまでプラスαとして捉えられてきた通級指導が、「無くてはならない指導の在り方」に変わったことを意味します。つまり、通級指導教員の定数化は、学校の特別支援教育における大きな転換点と言えます。
また、学習指導要領では、これらの動きを踏まえ、通級指導や特別支援学級に通う全ての子どもたちに対し、個別の教育支援計画や指導計画を定めることとされました。
このように、直近10年間で発達障害に関する法や制度の整備は急速に進んでいます。学校現場においては、これまで個々の先生が経験則によって支援の方針を判断していましたが、法や制度が整備されたことで、国の方針に基づいて体系的に支援する形へと変革が進みつつあります。
一方で、教員の多忙化やなり手不足など、学校が抱える問題は山積しています。限られたリソースの中で合理的配慮(※)を進めるためには、家庭と学校の協力が欠かせません。
お子さまの支援について保護者さまが学校や教育委員会に相談する際には、こうした社会的な変遷を踏まえ、
- 担任だけでなく、学校全体で組織的に対応すること
- 学校以外の機関とも連携すること
- お子さまの自立を最終的な目的とすること
を共通理解として持ちながら話を進めていただければと思います。
学校で行われる合理的配慮の例としては、タブレットなどの補助ツールの使用や、聴覚過敏の子のイヤーマフの使用などが挙げられます。
発達障害の子どもへの教育的支援
現代の学校では、「クラスに数人は発達障害の子どもがいる」という前提で授業づくりやクラス運営が行われています。教員養成課程(※)においても、発達障害の子どもの支援に関する授業が組み込まれているほか、採用試験において特別支援学校教諭の免許を持っている人を積極的に採用する都道府県も増えています。
一方で、教員の多忙化やなり手不足は学校現場において大きな課題となっています。毎日の業務に追われ、目の前のクラスをまとめることで精一杯であることも多く、「本当は一人一人の特性をしっかり見てあげたいけれど、そこまで手が回らない」と仰る先生も少なくありません。
ある小学校の先生のお話では、20人のクラスに6人の発達障害の子が在籍しており、その子たちが教室を飛び出すたびに授業が止まってしまうそうです。その先生は、「他の子に自習ばかりさせているのが申し訳ない」と仰っており、発達障害の子たち自身も「周りに迷惑をかけてしまっている」と心苦しく思っているのが見ていてわかるとのことでした。
他のクラスや学年主任の先生に助けを求めようとしても、どのクラスも似たような状況で相談しづらく、なかなか問題の解決につなげられないというのが現状のようです。
また、保護者さまに対し、お子さまに発達障害の可能性があることを伝えるかどうか、診断を受けることを勧めるべきかどうか悩んでいる先生も多いようです。発達障害に対する捉え方はご家庭によって異なるため、「うちの子を障害者と決めつけるのか!」とトラブルになってしまう場合もあります。
ただ、早めに診断を受けて支援につながるメリットは非常に大きく、例えば、大学共通テストで試験時間の延長や、ルビありの問題文の使用などを申請する際には、「発達障害の診断を受けているか」「これまで学校でどんな支援を受けてきたか」が申請の要件となる場合があります。
自分の指導力不足を棚に上げて「お子さんは発達障害かもしれません」と伝える先生は論外ですが、学校でのお子さまの振る舞いと、ご家庭でのお子さまの振る舞いが全く異なる場合もあります。
ご家庭での落ち着いた環境と、周りがざわざわしていて「やりたくない勉強をさせられる」という学校の環境では、お子さまの特性の現れ方も異なって当然です。もし学校から「発達障害かも…」と言われた場合は、学校でお子さまがどのような行動をしているのか、まずは客観的な情報から伝えてもらうようにしましょう。
保護者さまが解決策を思いついた場合(例:賑やかな環境が苦手なので、休み時間は図書室や保健室で過ごしたい/強い口調を聞くとパニックになってしまうので、他の子を叱るときも口調を弱めるか、別室で叱るようにしてほしい)は、学校に提案してみると良いでしょう。
学校としっかりと情報を共有しながら、一緒に解決策を探っていくことが大切です。
発達障害の子に分かりやすい授業=みんなに分かりやすい授業
皆さんは、「インクルーシブ教育」という言葉をご存じでしょうか?インクルーシブ教育とは、障害のある子もない子も一緒に学ぶことで、多様性を知り、お互いの個性を尊重しながら能力を発揮できるようにする教育のことです。
通級指導教室や特別支援学級では、支援の必要な子だけが別の教室で、別の授業を受けますが、インクルーシブ教育では、皆が同じ教室で同じ授業を受けることになります。定型発達の子どもたちと同じ授業を受けると、発達障害の子どもたちは授業についていけないのでは?と考えてしまいますが、様々な工夫を施すことによって、発達障害の子どもたちにとっても、定型発達の子どもたちにとっても分かりやすい授業を行うことが可能です。
インクルーシブ教育に積極的に取り組んでいる学校の例をご紹介します。
その学校の授業は、“集中しやすい環境作り”から始まります。黒板の横の掲示板にはカーテンが備え付けられており、授業が始まると、集中しづらい特性を持つADHDの子が、自発的にカーテンを引きにいきます。
次に、授業の目的の共有を行います。その授業の目当てを黒板の一番上に先生が大きく板書します(例:分母の違う分数の足し算の方法を考えよう)。目的を共有し、その授業のゴール(見通し)を示すことで、集中しづらいADHDの子や、見通しの立たない状況が苦手なASDの子も、落ち着いて授業に取り組めるようになります。
授業の中では、子どもたちが視覚的にイメージできるよう、図やイラストがたくさん使われます。例えば、分数の授業であれば、目盛りのあるコップに水が入っているイラストを用意し、1/2ずつ、1/3ずつなど切り取れる形にして、子どもたち自身が手を使いながら考えられるよう工夫します。
また、先生が一方的に話すのではなく、子どもたちに頻繁に質問を投げかけ「どんな考え方ができる?」「隣の席の子の解き方を聞いてみて」と、子どもたちが主体的・対話的に考えられるようなきっかけが与えられます。問いかけを挟むことで、集中を途切れさせないという効果も期待できます。
さらに、確認プリントは普通バージョンと易しいバージョンの両面刷りになっています。易しいバージョンのプリントは、考え方のヒントが書かれていたり、計算式が穴埋めになっていたり、漢字にルビが振ってあったりと、LDの子どもたちでも取り組みやすいように工夫が施されています。
この学校では、発達障害の子どもたちへの配慮として、
- 集中しやすい環境作り
- 授業の目的の共有
- 視覚イメージに訴えるための工夫
- 子どもたち同士の対話を促す授業展開
- 苦手な子向けの別バージョンのプリントの作成
などに積極的に取り組んでいますが、これらの工夫は発達障害のお子さまだけにメリットがあるものではありません。これらの工夫を行うことで、定型発達のお子さまにとっても分かりやすい授業が実現できており、取組を始めた10年前と比べて学校全体の学力は格段に伸びたそうです。また、近隣の学校と比べて不登校の子どもたちの割合も低いとのことでした。
もちろん、通級指導教室や特別支援学級で、一人一人に応じたカリキュラムによって学習するメリットも大きく、特にソーシャルスキルトレーニングなどは個別の対応が必須と言えます。一方、教科学習については、様々な工夫によってインクルーシブな教育を実現することが可能であると考えられます。
発達障害のお子さまは勉強が苦手というイメージがありますが、必ずしも「発達障害=低学力」というわけではありません。発達障害のある子どもたちの中には平均以上の知能を持っている子も多く、「集中しづらい」「教室の環境が苦手」という特性によって、結果として学力が伸び悩んでいるに過ぎません。
適切に環境を調整し、その子に合った教え方をすることで、発達障害のお子さまの学力は見違えるほど伸びていきます。全国の学校では様々な実践が行われていますので、将来的にはこれらの知見が集約され、どの学校でもインクルーシブな教育が実現されることを期待しています。
学校以外における発達障害の子どもへの教育的支援
学校以外の場所でも、発達障害のお子さまに対する様々な教育的支援を受けることができます。代表的なのが児童発達支援センターや放課後等デイサービスで、これらの施設では、お子さまの特性に応じた療育(※)やカウンセリング、保護者向けの相談などが行われています。
コミュニケーションスキルの向上を目指すためのトレーニングは「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」と呼ばれ、療育において最も中心的な役割を担っています。以下では、その一例をご紹介します。
なお、ソーシャルスキルトレーニングは、個別で行われるものと集団で行われるものがありますが、今回は集団で、小学校高学年~中学年の子どもたちが60分の授業として取り組むものをご紹介します。
○ソーシャルスキルトレーニングの例
①ウォーミングアップ【5分】
脳の働きを活性化させて集中力を高めるために、手先を使う立体のパズルに取り組みます。発達障害のお子さまは、発達性協調運動障害(ODD)を併発していることも多く、手先の細かい作業が苦手なお子さまもいらっしゃいます。
そのため、立体パズルはウォーミングアップだけでなく、それ自体が作業療法的な役割も果たしています。
②目的の共有【3分】
その日のトレーニングで何を身に付けるのかを皆で共有します。「2-1.発達障害の子に分かりやすい授業=みんなに分かりやすい授業」で解説したように、目的を共有し見通しを立てることで、60分のソーシャルスキルトレーニングにも集中して取り組むことができます。今回は、「パーソナルスペースについて知ること」を目的とした授業を例として取り上げます。
③ブレインストーミング(頭の体操)【7分】
テーマであるパーソナルスペースについて、知っていることや連想するものを皆で自由に挙げていきます。「自分だけの空間」「なわばり」「広い人と狭い人がいそう」など、思いつくものを発表していくことで頭を柔らかくし、考えるための頭の準備体操をしていきます。
④ロールプレイング【20分】
適切なパーソナルスペースについて考えるために、実際に身体を動かしてロールプレイングしていきます。感覚過敏の子もいるため、やりたくない子には強制せず、「パス」することも可能とします。
A) いきなり肩をつかむ
B) 肩をそっと叩く
C) 目の前まで近づく
D) 声を掛けてから目の前まで近づく
E) 声を掛けるだけで近づかない
ペアを組み、それぞれのロールプレイをやってみた感想や、見ていてどう思ったかを共有します。「AやCは怖いと思った」という意見や、「BはOK」という子に対し、「先に声を掛けてもらいたい」などの反論が出る場合もあります。先生が軽くまとめた後、いったん休憩に入ります。
⑤パーソナルスペースについての総括【15分】
パーソナルスペースについて、改めて先生からポイントを説明します。
○ 急に触られるとびっくりする、怖く感じる
用があるときはまず声を掛ける
○ 近づかれすぎると怖い
程よい距離のことを「パーソナルスペース」という
程よい距離は相手との関係性や状況で変わり、目安は以下のとおり
(ア) 密接距離(0~45cm)…家族などごく親しい人に接する距離。家族だけと考えてOK。
(イ) 個人距離(45cm~1.2m)…表情が読み取れ、手を伸ばせば触れられる距離。仲の良い友達との距離。
(ウ) 社会距離(1.2~3.5m)…初対面の人やそれほど親しくない人との距離。ビジネスの場面での距離。
⑥日常生活・社会生活への応用【10分】
子どもたちが日常生活を送る上では、(イ)個人距離か(ウ)社会距離が基本となります。また、例えば相手が落ち込んでいるときやイライラしているときは、親しい相手であっても物理的に十分な距離を取って話しかけることが必要な場合もあります。
発達障害のお子さまは、ケースバイケースの対応が難しいため、相手の表情と具体的な対応を一対一で結びつけながら説明する必要があります。具体的な場面が描かれた絵カードを使い、「こんな時はどうする?」というクイズによって適切な対応を一つずつ確認し、授業のまとめとします。
こうしたトレーニングを週に数回ずつ取り組んでいくことで、子どもたちは少しずつコミュニケーションのスキルを身に付けていくことができます。パーソナルスペースについても、定型発達の人はこうした授業を受けなくても自然と程よい距離感を身に付けることができますが、発達障害のお子さまは、丁寧に言語化し、実感を伴うトレーニングを行うことで初めてパーソナルスペースの感覚を身に付けることができます。
児童発達支援センターや放課後等デイサービスでは、パーソナルスペースのほかにも、様々なコミュニケーションスキルを身に付けるためのソーシャルスキルトレーニングや療育が行われています。
また、これらのトレーニングは、学校の通級指導教室や特別支援学級で受けられる場合もあります。お子さまがどんな特性を持っているのか、自立するためにどんな内容のトレーニングをどれくらい行う必要があるのか、医師や心理士、学校の先生としっかり相談しながら検討していくと良いでしょう。
発達障害の子どもへの教育的支援のまとめ
この記事では、発達障害のお子さまへの教育的支援について、法律面・制度面からの観点も踏まえつつ解説してきました。改めてポイントをまとめると、以下のとおりです。
- 発達障害などで特別な支援を必要とする子どもは、通常学級に8.8%の割合で存在するとされている。
- 2005年には発達障害者支援法が施行され、発達障害のある人への本格的な支援が始まった。
- 2016年の法改正では、多分野にわたる支援の連携や、教育現場における個別指導計画の作成、いじめの防止などが明確に盛り込まれた。
- 2017年度から10年間かけて通級指導教室の教員が基礎定数化されることとなった。これは、通級指導が学校において必須の教育形態として位置づけられたことを意味する。
- 学校現場では教員の多忙化やなり手不足が深刻化しており、その中でどのように合理的配慮を実現するかが非常に大きな課題となっている。
- 発達障害の子どもに配慮された授業は、発達障害でない子どもにとってもわかりやすいものであり、学校全体の学力向上にもつながる。
- 児童発達支援センターや放課後等デイサービスでの療育をとおし、社会で自立するためのスキルを身に付けることができる。
発達障害に関する法律や制度は、近年急速に整備されつつあります。一方で、教育分野に関しては、教員の多忙化と人材不足が深刻な状況にあり、理想と現実が乖離してしまっている現状も否定できません。
学校がチームとして動けているかどうか、入学前に保護者さまが判断し学校を選ぶことは、残念ながら現実的ではありません。今あるリソースの中でお子さまにとってより良い教育環境を実現するためには、学校と家庭が良い関係を築き、連携・協力していくことが大切です。
私たちプロ家庭教師メガジュンでは、長年にわたり発達障害のお子さまのサポートを行ってきました。「お子さまの困りごとについて、学校にどう伝えたら良いか分からない」「不登校の傾向にあるが、良い解決方法はないか?」など、学校に関係するお悩みの相談も承っています。
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最後までお読みいただきありがとうございました。