草原の木

【不登校実例】「元気がない」以外に手がかりがなかった小4のEさん|わり算のつまずきから見えたこと

公開: 最終更新:
✏️ この記事で分かること
  • 「元気がない」「原因がわからない」状態から、どこに手をつけたかの具体的な経過
  • わり算のつまずきが「自分はダメだ」という感覚に変わっていく過程
  • 勉強を教える前に、まず対話から始めた理由と実際のやりとり
  • 学校復帰を目標にせず、本人が動き出すことを見守った1年間

「理由を聞いても『わからない』としか言わない」
「学校で何かあったのか聞いても、特に何もないと言う」
「とにかく元気がなくて、家でもぼんやりしている時間が増えた」

お子さまが学校を休みがちになったとき、多くの保護者さまがまず探されるのは「原因」だと思います。

いじめられているのか、先生と合わないのか、勉強がしんどいのか。ところが本人に聞いても「わからない」「別に何もない」としか返ってこない。学校に問い合わせても、特にトラブルは見当たらないと言われる。

理由がわからないまま、欠席日数だけが増えていく。この状態が、実はいちばんしんどいのではないでしょうか。

この記事でご紹介するEさん(小学4年生)のご家庭も、まさにその状態でご相談をいただきました。お母さまからの最初のご相談も、「原因はわかりません」という一文から始まっています。

結論から申し上げると、Eさんは今も教室には入れていません。ただ、放課後に学校へ行けるようになり、仲良しのお友達とも少しずつ話せるようになりました。

そして何より、「私にもできるかも」「次はこれをやってみる」という言葉が本人から出るようになりました。

この記事では、原因が特定できない中で、どこから手をつけて、何が動いたのかを、実際のやりとりを交えながら詳しくご紹介します。

同じように、不登校の原因がわからない状態でお悩みの保護者さまに、ひとつの参考としてお読みいただければ幸いです。

📢 こんな方におすすめ
  • 学校を休みがちだが、理由がはっきりしない
  • 休んでいる期間の勉強の遅れが心配だが、勉強の話をすると嫌がる
  • お子さまが「どうせ私なんて」といった言い方をすることがある
  • 学校に戻すことを目標にすべきか、迷いがある
  • 家庭教師を検討しているが、今の状態で授業が成立するのか不安
妻鹿潤
執筆・監修
発達障害・ギフテッド専門のプロ家庭教師
妻鹿潤X 公式アカウント
  • 16年以上1500名以上の指導実績あり
  • 個別指導塾の経営・運営で、お子さまの性質・学力を深く観る指導スタイル
  • Yahoo!/SmartNews/NewsPicks などメディア向け記事の執筆・掲載実績

【不登校の実例】小4のEさん|「元気がない」以外に手がかりがないところからのご相談

不登校の原因

※「原因がわからないまま何もできていない」「まず話を聞いてほしい」という方は、こちらから無料相談も受け付けています。

Eさんのお母さまから最初にご連絡をいただいたのは、Eさんが小学4年生のときの9月でした。

いただいたご相談メールの概要は、以下のとおりです。

Eさんのお母さまからいただいたご相談メールの概要
  • Eさんは小学4年生。1学期の終わり頃から欠席が増え、2学期に入ってからはほとんど登校できていない
  • 学校に行きたくない理由を聞いても、「わからない」「なんとなく」としか言わない
  • 担任の先生に確認したが、いじめや目立ったトラブルの心当たりはないとのこと
  • 家では大きく荒れることもなく、ただぼんやりしている時間が増えた
  • 好きだった本もあまり読まなくなり、口数が減った
  • 朝は起きられる日と起きられない日があるが、体調不良が続いているわけではない
  • 休んでいる間の勉強の遅れが心配。プリントは学校からもらってくるが、ほとんど手をつけられていない
  • 勉強の話をすると機嫌が悪くなるため、家庭内では触れにくくなっている

このご相談で特徴的だったのは、お母さま自身が「原因がわからない」と正直に書かれていた点です。

不登校のご相談では、「友達関係で何かあったようだ」「先生と合わないらしい」といった見立てを添えていただくことも多いのですが、Eさんの場合はその手がかりすらない状態でした。

そして、ご依頼として明確に示されていたのは「勉強の遅れをどうにかしたい」という一点です。

私たちがまずお伝えしたのは、この2つを切り離して考えましょうということでした。

  • 原因の特定を急がない
    ご本人さまが「わからない」と言うときは、多くの場合、自分でも何がしんどいのか言語化できていない状態です。このとき、無理に聞き出そうとせず、一緒に原因を考えて言語化をサポートしてあげることが大切です。
  • 勉強の遅れの解消だけにこだわらない
    無理に勉強させると、お子さまの心がさらに消耗してしまうかもしれません。ただし、ご本人も勉強の遅れから自信を無くしてしまっていることもあるので、丁寧に見ていくことが大切です。

実は、勉強の場面には、お子さまの自己認識がそのまま現れることが比較的よくあります。

どこで手が止まるか、間違えたときにどう反応するか、わからないと言えるかどうか。

これらは、お子さまがどんな性質を持っていて、今どんな状況にあるのかを読み取る重要なヒントになります。

そこで私たちは、お母さまに次のようにご提案しました。

====================================
この度はご相談をいただき、ありがとうございます。

いただいたメールを拝見し、これまでお母さまがEさんのご様子を本当に細やかに見てこられたことが、よく伝わってまいりました。

理由がはっきりしないまま日が過ぎていく状況の中で、ご心配なお気持ちが続いていらっしゃることと存じます。まずは、お一人で抱え込まずにご連絡くださったことを、ありがたく思っております。

さて、今後の進め方について、現時点で私どもが考えておりますことをお伝えさせてください。あくまで一案ですので、ご家庭のお考えと違う点がありましたら、遠慮なくお聞かせいただけますと幸いです。

<1.学校に行けない理由について>

Eさんが「わからない」と仰っているのは、はぐらかしていらっしゃるのではなく、いくつかのことが重なって、ご本人さまの中でもまだ整理がついていない状態なのではないかと感じております。

小学生のお子さまの場合、自分の気持ちを言葉にするのはとても難しいことですので、これはごく自然なことかと思います。

ですので、しばらくの間は、理由を特定することを急がずに進めさせていただければと考えております。

もちろん、私どももEさんとお話を重ねる中で、少しずつ背景が見えてくることは多くございます。ただ、それはこちらから問いかけて引き出すものというよりも、Eさんが安心して話せるようになったときに、ご本人さまの言葉として自然に出てくるものだと感じております。

その時間を、少しいただければ幸いです。

<2.学習面について>

お休みの間の学習の遅れをご心配されているとのこと、当然のお気持ちだと思います。こちらは早めに拝見させていただければと考えております。

ただ、一点だけ、あらかじめお伝えさせてください。

私どもが最初に学習の様子を拝見したい理由は、遅れを取り戻すためというよりも、Eさんが今どこまで理解できていて、どのあたりから曖昧になっているのかを知りたいためです。

というのも、勉強の場面には、お子さまご自身が「自分をどう見ているか」が現れることが少なくありません。

どこで手が止まるか、間違えたときにどんな反応をされるか、「わからない」と言えるかどうか。こうした様子から、Eさんが日々どんな気持ちで教室に座っていらっしゃったのかが、少しずつ見えてくることがあります。

ですので、まずは学習面を入口にさせていただき、そこからEさんご本人の状態を、ご家庭と一緒に見ていければと考えております。

<3.最初の数回の授業について>

こちらは、事前にご了承いただけますと大変ありがたい点になります。

初期の授業では、あまり学習を進めない形になる可能性がございます。

Eさんと講師との間に「この人になら話しても大丈夫だ」という感覚ができてから学習に入った方が、結果としてEさんの負担も少なく、内容も身につきやすいと、これまでの経験から感じているためです。

保護者さまから見て「今日も勉強していないようだけれど、大丈夫だろうか」とご不安になられることもあるかと思います。

その際は、どうぞ遠慮なくお申しつけください。授業ごとに、その日Eさんとどのようなお話をして、こちらがどう受け止めたかを、その都度ご報告させていただきます。

以上、長くなってしまい申し訳ございません。

まずはこの方針でよろしいかどうか、ご家庭でご検討いただけますと幸いです。ご不明な点やご要望がございましたら、どうぞお気兼ねなくお知らせください。

お返事は急ぎませんので、ゆっくりとご覧いただければと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。
====================================

この提案に対し、お母さまはいずれの点についても快く承諾してくださいました。

学習状況を見て分かったこと|わり算でつまずき、「わからない」と言えなくなっていた

急かさず力を引き出す。家庭と学校でできる学習の環境調整

初回の授業では、まずEさんの学習状況を確認させていただきました。

とはいえ、テストのような形にすると身構えてしまいますので、講師が問題を出しながら一緒に解いていく形で、ゆるやかに確認していきます。

その中で見えてきたのが、わり算でつまずいたまま止まっているという状態でした。

「1けたでわるわり算」は解けるのに、そこから進めない

Eさんは、九九を使って答えが出せる範囲のわり算はスムーズに解けます。

ところが、わる数が大きくなり、「だいたいいくつか見当をつける」という作業が必要になった瞬間に、完全に手が止まりました。

これは、小3〜小4のこの時期に非常によく見られるつまずき方です。

  • これまで:暗記で対応できた
    九九を覚えていれば、わり算も「かけ算の裏返し」として答えが出せます。そのため、計算の本質的な意味を理解していなくても正解できてしまいます。
  • ここから:手順の理解が必要になる
    数が大きくなると、暗記では届きません。見当をつけて、かけて、引いて、次の位へ下ろす、という手続きの意味を理解している必要があります。

つまり、Eさんのつまずきの根本的な要因は「わり算が苦手だから」ではなく、それまで通用していたやり方が、通用しなくなったことにあります。

そして、ここが重要なのですが、本人にはその変化の理由がわかりません。

昨日までできていたことが今日はできない。周りの子は普通にやっている。先生の説明は聞いているつもりなのに、途中からわからなくなる。

この状態が続くと、多くのお子さまはある結論に辿り着いてしまいます。

それは、「私は頭が悪いんだ」という結論です。

つまずいた原因に気づける小学生は、ほとんどいません。そのため、原因を自分自身に帰属させてしまうケースが非常に多いです。

「わからない」と言えなくなっていた

もうひとつ見えてきたのが、Eさんが「わからない」と言わないということでした。

問題を出すと、じっと考え込みます。時間が経っても答えを書きません。かといって「わからない」とも言いません。

講師が「ここまではどう?」と聞くと、小さく頷きます。しかし、次の一手が出てこない。

この様子から、Eさんは教室でも同じように、わからないまま座っていた時間が長かったのではないかと考えられました。

「わからない」と言えなくなる理由は、お子さまによって様々です。

  • 周りは誰も聞いていないのに、自分だけ聞くのが怖い
  • どこがわからないのかを説明できないので、聞きようがない
  • 一度聞いたことをもう一度聞くのは、申し訳ないと感じる

Eさんの場合、後から本人の言葉として出てきたのは「どこがわからないか、わからなかった」というものでした。

これは非常によくある状態です。つまずきが一点ではなく全体が曖昧になっているとき、お子さまは質問を組み立てることすらできません。

そして、質問できないまま授業だけが進んでいくと、教室にいる時間そのものが「自分が取り残されていることを確認し続ける時間」になります。

この時点で私たちは、

わり算のつまずきをきっかけに積み上がった「自分はできない」という感覚が、Eさんの毎日にかなり広く影響しているのではないか

——と見立てました。

【ギフテッド実例】白黒思考で完璧主義なお子さまへの関わり方を解説|2E型・こだわり・特徴・教育法pro-megajun.com

「全部できないと意味がない」となりやすいお子さまへの対応です。

何から始めたか|勉強ではなく、まず対話から

草原の木

学習状況が見えた段階で、では早速わり算からやり直しましょう——とはしませんでした。

メガジュンでは、講師とお子さまの対話と信頼関係の構築を非常に重視しています。特に、今回のように本人が自分の状態を言語化できていない場合、ここを飛ばすと指導そのものが成立しません。

そのため、最初の数か月は、授業時間の多くをEさんとの対話に使いました。

雑談の中で出てきた、Eさんの自己認識

Eさんは口数が多い方ではありませんでしたが、好きな本や飼っている猫の話になると、少しずつ話してくれるようになりました。

そうしたやりとりを重ねる中で、あるとき、クラスの話題になりました。

Eさんが話してくれたのは、こんな内容です。

「○○ちゃんは絵がすごく上手で、この間は賞を取っていた」
「△△くんは足が速くて、リレーの選手」
「□□ちゃんは、発表のときにすごくはっきり喋れて、先生に褒められる」
「……私は、そういうのがないから」

最後の一言は、ほとんど独り言のようなものでした。

Eさんは、意識的に自分を卑下しているつもりはおそらくありません。クラスの様子を、事実として並べているだけです。

にもかかわらず、「私には何もない」という言葉が出てくる。このことは、Eさんの状態を理解する上で非常に重要でした。

  • 絵が上手でもない
  • 運動ができるわけでもない
  • 活発でも、目立つ方でもない
  • そして、勉強もできない

Eさんの心の奥底には、「自分には、人に見せられるものが何もない」という自己認識が横たわっているのではないか、と私たちは考えました。

こうなると、影響は勉強だけに留まりません。

お友達と話していても、どこか申し訳ないような気持ちになる。何か言おうとしても、こんなことを言っていいのかと迷う。相手の反応が気になって、常に気を使う。

誰かに何かをされたわけではないのに、人といること自体が消耗する状態です。

これは「友達関係のトラブル」としては学校にも家庭にも見えません。Eさんが「わからない」としか言えなかったのも、当然といえば当然でした。

目標を「学校に戻ること」に置かないと決めた

この段階で、お母さまと改めて方針を共有しました。

====================================

ここまでの授業を通して、Eさんについて見えてきたことがございますので、現時点での私どもの受け止めをお伝えさせてください。

授業の中で、Eさんがクラスのお友達のお話をしてくださったことがありました。

「○○ちゃんは絵が上手で」「△△くんは足が速くて」といったことを、一つずつ丁寧に挙げてくださった後で、最後に「私は、そういうのがないから」と、ふと独り言のようにこぼされました。

この一言をお聞きして、Eさんの中に「自分には、人に見せられるものが何もない」という感覚があるのかもしれない、と感じております。

これは勉強のことだけを指しているのではなく、Eさんがご自身のことを全体としてそのように整理されているような印象を受けました。

もしそうだとすると、Eさんにとっては、お友達と過ごす時間もかなり消耗するものになっているのではないかと思います。

お話ししていても、どこか申し訳ないような気持ちになる。何か言おうとしても、こんなことを言っていいのだろうかと迷ってしまう。相手の反応が気になって、ずっと気を使ってしまう。

誰かに何かをされたわけではないのに、人と一緒にいるだけで疲れてしまう、という状態です。

こうした状態は、外からはとても見えにくいものです。学校でも、ご家庭でも、目に見える出来事が何も起きていないためです。

Eさんが「わからない」としか仰らなかったのも、無理のないことだったのだと思います。

その上で、今後の目標について、ひとつご提案がございます。

ひとまずの目標を、「学校に戻ること」や「今の学年の勉強に追いつくこと」ではなく、Eさんご自身の「私には何もない」という感覚が少しずつ変わっていくことに置かせていただけないでしょうか。

そのための手段として、勉強を使っていきたいと考えております。

学年相当の内容にこだわらず、Eさんが確実に「わかった」「できた」と感じられるところまで戻り、その感覚を一つずつ積み直していく形です。

このやり方で自信を取り戻されていったお子さまを、私どもはこれまで何人も見てまいりました。

そして、この感覚が戻ってくると、その後の変化は思いのほか早く進んでいきます。

学習面は、ご本人さまに気持ちの余裕が生まれてからの方がずっと早く進みますし、人と関わることへの負担も少しずつ軽くなっていきます。

学校に関しても、すぐに毎日通えるようにはならなかったとしても、放課後だけ行ってみる、進学のタイミングで新しい環境から通い始める、といった形で道が開けていくケースは決して少なくありません。

反対に、この感覚が戻らないまま学習量を増やしたり、登校を目標に置いたりしますと、Eさんの中の「やっぱり私にはできない」という気持ちを強めてしまうことにもなりかねません。

学習の遅れをご心配されているお母さまにとっては、もしかしたら遠回りに感じられるご提案になっているかもしれません。

ですが、Eさんにとっては、こちらの方が確かな道になるのではないかと考えております。

この方針でサポートさせていただければと思うのですが、いかがでしょうか。

ご不安な点や、ご家庭としてのお考えがございましたら、遠慮なくお聞かせいただけますと幸いです。一緒に考えさせていただければと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。
====================================

これに対して、Eさんのお母さまから以下のお返事をいただきました。

====================================
先日はご丁寧なご連絡をありがとうございました。

「私は、そういうのがないから」という言葉は、Eが家で言ったことは一度もありません。でも、Eの日々の過ごし方や、自分よりも他人軸で考えてしまいがちな性質をもっていることは、親としても思い当たることがいくつもあります。

ご提案いただいた方針についてですが、夫とも話し、ぜひその形でお願いしたいと考えております。

もともとは勉強の遅れのご相談のつもりでご連絡したのですが、そこまで深く見ていただけたことが、正直なところとてもありがたいです。

遠回りだとは全く思っておりません。むしろ、私たちが一番気になっていながら、どう言葉にしてよいかわからなかった部分に、先生の方から触れていただいたように感じています。

学校のことは、いったん考えないようにします。

これまでは、朝になるたびに「今日は行けるだろうか」と考えてしまい、Eもそれを感じ取っていたと思います。私が構えているのが伝わって、余計にしんどくさせていたのかもしれません。

勉強についても、学年のことは気にしないようにいたします。

Eが「できた」と思える場面を少しでも増やしてやりたいですし、それが今のこの子にとって一番必要なことなのだろうと、ご説明を読んで納得いたしました。

Eが自信を取り戻していけるよう、どうぞよろしくお願いいたします。

親としては、正直まだ不安もありますが、少し先が見えたような気持ちでおります。

引き続きお世話になります。
====================================

👉 「理由がわからない」ままでも大丈夫です

原因が特定できていなくても、ご相談いただけます。
「わからない」という状態そのものから、一緒に整理させていただきますのでご安心ください。

少しずつ解ける範囲を広げていく

重なる手

Eさんが大きく一歩踏み出せたきっかけは、雑談の中でのことでした。

ある日の授業で、Eさんが飼っている猫の話をしていて、ごはんの量をどうやって決めているのかという話題になりました。

Eさんは、袋に書いてある1日分の量をきちんと量って、それを朝と夜に分けて出しているとのことでした。しかも、その日におやつをあげたときは、その分を差し引いてから分けているそうです。

講師は、少し驚いてこう言いました。

「え、それ全部Eさんがやっているんですか?」
「はい」
「Eさん、わり算できてますね!」
「え??」

講師は、キャットフードのイラストと、その隣に式を書いていきます。

「1日分がこれで、おやつの分がこれですよね。まずこっちを引いて、残りを2回に分ける。だから、こうなります」
「……」
「今Eさんがやっているのは、これです。まさにわり算そのものですよ」
「……そう、なんですか」

Eさんは、まだぴんとこない様子でした。

そこで講師は、こう続けました。

「半信半疑ですね。じゃあ、ちょっと数字を変えてみましょうか」

講師は今度は、実際のキャットフードのグラム数から少し数字を変えた式を書きました。

その式はまさに、計算ドリルで出てくるような式そのものです。Eさんはここでやっと「確かに、わり算だ」という顔をしました。

もちろん、Eさん一人ではまだこの問題を解くことはできません。

そこで講師が、先ほどキャットフードの例で説明したのと同じ手順で解きながら、ところどころでEさんに「ここは何が入ると思いますか?」と声をかけていきます。

「猫ちゃんは朝と夜の2回だったので、2で分けましたね。ということは、この式だと……」
「3?」
「そのとおりです!」

そして、計算を最後まで書き終えたとき、講師が言いました。

「ほら、わり算できちゃいましたね」
「……そうなんですか?」
「そうですよ。だからEさんも、必ずひとりで解けるようになります。また来週も、一緒にやりましょうね」

その授業のあと、Eさんはしばらく講師が描いたキャットフードのイラストを見ていたと、後日お母さまが教えてくださいました。

「あれ、本当に解けるようになってる」

この日の宿題は、簡単な問題を数問だけにしました。

解けることがわかっている問題を、少しだけ。それ以上は出しません。

翌週の授業では、前回と同じところの復習から始めます。

すると、前の週には講師が声をかけていたいくつかの箇所を、全部ではないものの、Eさんは自分で進めることができました。

「先週より解けるようになっていますね」と講師が声をかけると、Eさんはにこっと笑って「はい!」と元気にうなずいてくれました。

Eさんにとって重要だったのは、わり算が解けたことそのものではなかったと思います。

先週できなかったことが、今週はできている。

この一週間の差を、Eさん自身がはっきりと感じ取れたことが、大きかったのだと考えています。

次の週、また次の週と、Eさんは少しずつ、講師のサポートが無くても解ける範囲を増やしていきました。

そして、Eさんが自力で最後まで解ききった、最初の1問。

講師が「全部自分で解けましたね」と伝えると、Eさんは今度は少し感慨深そうに、「はい」と答えてくれました。

Eさんの場合、何が効いたのか

Eさんの歩みは、毎週ひとつの手順を進むかどうかという、とてもゆっくりしたものでした。

ですが、振り返ってみると、この進み方だったからこそ功を奏した部分が数多くあったように思います。

  • 「もしかしたら解けるかもしれない」から始まった
    猫のごはんの話は、Eさんがすでにできていたことです。新しく何かを身につけるのではなく、できていたことに名前がついただけなので、身構える必要がありませんでした。
  • 毎週、必ず最後まで解ききった
    講師が横についている状態であっても、1問を最後まで解ききる形を毎回つくりました。「途中でわからなくなって終わる」という体験を積まないことを重視しました。
  • 解けない問題を、宿題にしなかった
    宿題は、解けることがわかっている問題だけです。ご家庭で一人になったときに手が止まると、それだけで「やっぱり私はできない」に戻ってしまうためです。
  • 学年相当の内容と比べなかった
    今どのあたりを勉強しているのか、学校の進度とどれだけ差があるのかという話は、この時期は一切しませんでした。

特に最後の点は、重要だったと考えています。

学年相当の内容を目標に置いてしまうと、どれだけ進んでも「まだ届いていない」という状態が続きます。

Eさんに必要だったのは、前に進んでいる実感でした。追いつくまで手に入らない実感では、間に合わなかったと思います。

比べる相手を、学年ではなく「先週の自分」に置いたこと。

これが、Eさんの中の「私にはできない」を少しずつ動かしていったのだと考えています。

【ギフテッド実例】不登校から中学受験へ:算数大好き小学4年生がプロ家庭教師と出会い、見つけた希望pro-megajun.com

本人の内発的な動機を起点にした別ケースです。

「私にもできるかも」が出てくるまで

スニーカーの足元

ここから先の変化は、比較的わかりやすい形で現れました。

まず変わったのは、授業中の発言です。

これまでEさんは、授業中の発話が少なく、ほとんど講師が問いかけたことに答えるだけでした。
それが、次第に自分から言葉を出してくれるようになってきました。

「これ、さっきのと似てる気がする」
「わり算じゃなくて、かけ算で確かめてみたいです」

特に2つ目のような発言は、これまでのEさんからは出てこなかったものです。

「与えられたことをこなす」から、「自分で次を決める」への変化です。

これは学力の伸びとは別のもので、自分の意志でやりたい、という感覚が戻ってきたことを意味します。

お母さまからも、この時期に次のようなご連絡をいただきました。

====================================
メガジュンさんにお世話になった1年間で、いちばん変化を感じているのは、Eの顔つきが明るくなったことです。

これは数字にできることではないのですが、家にいるときの様子が、去年の今頃とはまるで違います。

先日、Eが自分から「今日はここまでやった」とノートを見せてきました。以前は勉強の話題そのものを避けていたので、これには驚きました。

正直に申し上げると、この1年、私の中に焦りが無かったわけではありません。

先生の方針には納得しておりましたし、Eには合っていると感じておりました。それでも、周りのお子さんの話を聞いたりすると、「本当にこのペースでいいのだろうか」と思う日もありました。

ただ、そのたびに授業のご報告を読み返しておりました。

Eが今日どんな様子だったか、何を話したか、どこまで進んだか。毎回、細かく書いてくださっていましたので、Eがちゃんと前に進んでいることが、私にもわかりました。

正直なところ、あの報告は私たち親のためにもなっていたと思います。

私たちが落ち着いていられたのは、先生方が丁寧に見てくださっていたからです。

Eのことだけでなく、私たち親のこともサポートしていただいたように感じております。

まだ学校に通えているわけではありませんし、この先どうなるかもわかりません。

ですが、1年前の、どうしていいかわからなかった頃と比べれば、今はずっと落ち着いた気持ちでEを見られるようになりました。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
====================================

Eさんの現在|できていないことと、できるようになったこと

空

現在、Eさんは教室には入れていないものの、放課後登校ができるようになりました。

それも、きっかけはEさん本人からの提案でした。

担任の先生が定期的にプリントを届けてくださっていたのですが、あるときEさんが「取りに行ってみる」と言ったそうです。

最初は校門まで。次に昇降口まで。そして、誰もいなくなった時間の教室まで。

現在は週に2回ほど、放課後に学校へ行き、先生と少し話して帰ってくることができています。

ペースを決めているのはEさん自身です。Eさんは自信を取り戻したことで、少しずつですが「自分で決めて、自分で動く」ことができるようになってきています。

お友達と会えた日のこと

放課後登校を始めてしばらく経った頃、以前よく一緒にいたお友達が、Eさんを待っていてくれた日があったそうです。

短い時間で、特別な話をしたわけでもなかったようです。

ただ、その日のことをEさんが講師に話してくれたとき、Eさんは少し意外な言い方をしました。

「久しぶりに会えて嬉しかったです」 「心配してくれてたみたいで、ありがたかったです」

講師が意外に思ったのは、ここに「申し訳ない」というニュアンスが入っていなかったことでした。

心配をかけてしまった。自分のせいで気を使わせている。会いに来てくれたのに、うまく話せなかった。

こんな言葉が出てくるのではないかと、正直なところ、講師は少し心配していました。

ですが、Eさんから出てきたのは「嬉しかった」という言葉。

もちろん、これだけで何かが解決したわけではありません。

ただ、人と関わったときに、しんどさや後ろめたさをメインで感じることが無かった——という点は、Eさんにとって小さくない変化だったように思います。

それでも、残っているもの

一方で、変わっていないこともあります。

  • 教室に入ることは、今もできていません
  • 朝から登校することも、まだ難しい状態です
  • 人に気を使いすぎて疲れてしまう傾向は、今も残っています
  • 調子が下がる日もあり、そういう日は授業も雑談だけで終わります

Eさんは今も、学年より前の内容を中心に取り組んでいます。授業で扱う問題数も、一般的な学習量から見ればかなり少なめです。

ですがEさんは今、自分が確実に理解できる速さでしっかりと進んでいます。そして、この積み重ねが続けば、内容そのものは後からついてきます。実際、進むスピードは指導を始めた頃と比べて明らかに上がっています。

ペースを上げるかどうかは、Eさんの状態を見ながら、これから少しずつ判断していくことになります。

ただ、確実に言えることがひとつあります。

それは、Eさんが、学習が遅れていることを理由に自分を責めなくなったということです。

出会ったばかりの頃、Eさんは「私には、そういうのがないから」と言っていました。

今は、少しずつ解ける問題が増えていることに自信を持てるようになり、わからないところを自分から聞けることも増えてきました。

人と比べるのではなく、自分のペースで進んでいることを、自分で認められる。

そして、わからないときには、わからないと言える。

これは、Eさんがこれから先も長く必要とする力だと考えています。

教室に戻れる日が来るかどうかは、まだわかりません。

ただ、その日が来ても来なくても、この力はEさんの中に残っていきます。私たちはそう考えて、これからもEさんのサポートを続けていきます。

累計1,000名以上の指導実績・満足度98%
「うちの子に合った学び方」をプロ講師が一緒に見つけます
発達障害・ギフテッド・不登校のお子さま一人ひとりに最適な指導プランをご提案
無料相談を予約する(24時間受付中)

振り返り|Eさんのケースでのポイント

まとめ

1年間を振り返って、Eさんのケースで重要だったポイントをまとめます。

  • 原因の特定を急がなかった
    「わからない」と言うお子さまに理由を求め続けることは、答えられない自分への負い目を増やします。Eさんの場合、「自信の無さ」は原因の一つではありましたが、その特定を急ぐことはしませんでした。
  • 学習を、遅れの回復ではなく自信を育てる入り口として使った
    猫のごはんの話から始め、そこから少しずつ範囲を広げていきました。毎回必ず最後まで解ききれる形にし、宿題も解けることがわかっている問題だけに絞りました。
  • 勉強を進める前に、対話に時間をかけた
    「私は、そういうのがないから」という一言は、雑談を重ねなければ絶対に出てきませんでした。
  • 目標を「学校に戻ること」に置かなかった
    復帰を目標にすると、お子さまは常に未達の状態に置かれます。ご家庭がこれを手放してくださったことは非常に重要でした。
  • 比べる相手を、学年ではなく「先週の自分」に置いた
    学年相当を目標にすると、どれだけ進んでも「まだ届いていない」が続きます。前に進んでいる実感を持ってもらうため、学年の内容とは完全に切り離しました。

ただし、これがすべてのお子さまにとって最適というわけではありません。

Eさんの場合は、自己認識のところに大きな要因があり、そこが動いたことで他のことも少しずつ動き始めました。

一方で、感覚の過敏さが主な要因であるお子さま、体調の問題が背景にあるお子さま、学校側との調整が最優先になるお子さまもいらっしゃいます。少しプレッシャーをかけてあげた方が頑張れるお子さまもいらっしゃいますし、効果が出るアプローチは本当にお子さま一人ひとりで全く違います。

ですので、この記事のやり方をそのまま真似していただく必要はありません。

もし今、「理由がわからない」「何から手をつければいいかわからない」という状態でいらっしゃるのであれば、まずはお話を聞かせていただければと思います。

原因が特定できていない段階でのご相談を、私たちはむしろ歓迎しています。お子さまご本人も言語化できていない部分を、一緒に整理していくところから始めさせていただきます。

初回の面談は無料で承っております。

授業は対面・オンラインどちらにも対応しており、全国からご利用いただけます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

👉 無料相談・体験授業のご案内

「理由がわからないままで、相談してもいいのだろうか」と迷われている方こそ、お気軽にご連絡ください。
学校に戻ることを目標にしない支援も含めて、ご家庭に合った形をご提案いたします。

プロ講師によるオーダーメイドの伴走支援まずはお気軽にご相談ください

こちらもおすすめ