36. 先生のことを舐めていて、言うことを聞かない
生まれつき知能の高いギフテッドのお子さまは、議論をしても大人が負けてしまったり、お子さまの意見に対して大人が論理的に反論できなかったりすることがあります。こうした経験が積み重なると、「大人なんて大したことが無い」とお子さまが感じて、大人を下に見てしまったり、言うことを聞かなくなったりする場合があります。
こうしたお子さまに対しては、
②知識が無い・論理的思考力が低い人との折り合いの付け方を知る
といった2つのアプローチによって、大人に対する態度を改めていくことができます。
まず、「①お子さまに対して、きちんと論理的に反論できるに出会わせる」に関しては、ギフテッドのお子さまは論理的な正しさにこだわることが多いため、大人の側も論理的に対応していくことで解決を図るという方法になります。
例えば、場合の数を求める問題において、学校では全ての場合を書き出して答えを求めるように指示されている一方、お子さまは既にnCrの公式を知っているため、「nCrを使って解きたい」と主張するようなケースがあったとします。
この場合、「とにかくnCrの公式は使っていけない」と一方的で非論理的な伝え方をすると、お子さまは強く反発し、「先生は頭が固い」「nCrも教えないなんて、学校は頭が悪い人が集まっているんだ」と周りを見下してしまうことがあります。
もし、お子さまがnCrの公式を使いたいと主張した場合には、「塾では習っているんだね。どういう使い方をすれば良いか、先生に教えてくれる?」と公式の意味を説明させます。
このとき、「nとrに数字を当てはめればよい」という表面的な説明しかお子さまができない場合は、公式を丸暗記しているだけであり、後々の勉強で非常に苦労することになります(関連項目→29.応用問題が解けない)。
お子さまが「5枚のカードから2枚引くから、5と2を当てはめれば答えが出る」というような表面的な操作の手順しか説明できないときは、「なぜそうすると10通りということになるの?先生に分かるように説明してみて」と何度か問いかけ、それでも答えが出てこない場合は、講師がnCrの公式について一から証明して見せます。
当然ながら、nCrの公式の説明をする際には、5枚のカードから2枚を引き出す場合の例をいくつか挙げつつ、そこから「カードを引く全てのパターンは5×4×3×2×1(5の階乗)」「順番は加味しないから『÷2』」など、順を追って説明していくことになります。
その説明を踏まえて、さらに、
・先生がしたような説明が自分でできないということは、nCrの公式が本当の意味で身に付いていないということ
・本当の意味で公式を理解せず表面的に使っていると、今後応用問題に出会ったときに解けなくなる
・自分で公式の説明ができないのであれば、公式を使うのはやめるように。使いたいのであれば、自分で公式の説明ができるようになること。
と順を追って説明していきます。
このように、お子さまに対して「論理的に説得する」というアプローチを行うためには、指導者がお子さまを上回る論理的思考力と説明力を持っていなければなりません。また、当然ながらnCrを分かりやすく解説するための知識や指導力も必要です。
こうした技量のある指導者は決して多くはありませんが、「nCrを使いたい」というお子さまに対して感情的に「ダメなものはダメ」と言うだけでは、お子さまの「大人を舐めてかかる」という態度はなかなか改善しません。
また、こうした態度のまま大人になってしまうと、上司や同僚や配偶者を見下してしまったり、「自分が絶対に正しいと譲らない」「謝るべきときに謝れない」「プライドが高い」などの振る舞いが染みついてしまい、後々の人生で非常に苦労するかもしれません。
ですので、知能が高く大人を見下しているお子さまに対しては、早いうちにお子さまよりもさらに知識や思考力が上回る大人と対峙させ、自分の考えや主張が絶対では無いという経験を得させてあげることが大切です。
また、上述の例で「公式の意味を説明して」と言った際に、お子さまがしっかりと公式の意味を説明できた場合は、もう一つのアプローチである「②知識が無い・論理的思考力が低い人との折り合いの付け方を知る」によってお子さまの態度の改善を図っていくことになります。
nCrの公式の意味がしっかりと説明できるのであれば、公式の使用を禁止する理由はありません。ですので、学校においても「自分は公式の意味をきちんと理解して使っているから問題は無いはずだ」と主張し、学校の先生と論戦を交わすことも一つの方法になります。
ただ、学校の先生は必ずしも論理的に考えられる人ばかりではなく、「ダメなものはダメ。場合の数を全部書かないなら減点する」と、お子さまの主張を聞き入れてもらえない可能性も十分にあり得ます。
その場合は、残念ですが「大人の中にはそういう人もいる」とお子さまに理解してもらう(端的に言えば、“諦めてもらう”)ことが必要になります。
ギフテッドのお子さまは、周りの人も自分と同じように論理的に考えて行動できると思っている場合が多いのですが、実際のところ、ギフテッドのお子さまと同じレベルで論理的に考えられる人はほとんどいません。ギフテッドの出現率は人口の2%とされており、ギフテッドのお子さまに比べれば、ほとんどの人は論理的思考力が低く、感情に左右されて行動していると言えます。
この「ほとんどの人間は論理的に考え行動する力がお子さまよりも低く、感情に左右されて生きている」という事実について、お子さまに率直に伝えることも、ギフテッドのお子さまが生きていく上では必要なことになります。その上で、ギフテッドではない人たちとどのように折り合いを付けていくかをお子さま自身が考えていくことが大切です。
上述の例で言えば、
・周りに合わせずnCrの公式を使って解く(ただし、点数は得られない)
・nCrの公式を使って解いても点数を得られるよう、先生と交渉する
など、折り合いの付け方は様々あり、どれが正解ということはありません。それぞれのメリットやデメリット、先生との相性を考えながら、最終的にはお子さま自身が判断していくことになります。
折り合いの付け方までをお子さまに選択させるのは気の毒なようにも思いますが、お子さま自身が考え選択しないと、いずれにせよ「与えられた選択」となってしまい納得感を得ることができません。また、ギフテッドのお子さまが生きていく上で、このような折り合いの付け方を選択する場面にはいつか必ず直面しますので、子どもの頃から少しずつ慣れておくと良いでしょう。
ただ、「周りの人は皆、あなたほど論理的に思考する力を持っていない」と説明することは、「周りは皆、自分より頭が悪いのだ」と周りを見下してしまう態度をさらに増長させてしまう可能性があります。伝え方には十分配慮し、「周りもあなた自身も、両方が納得できるやり方を見つけることが大切」ということについても、併せてしっかりと伝えていただければと思います。