29. 応用問題が解けない

「基本問題は解けるのに、応用問題になると解けなくなる」というお悩みはよく伺います。応用問題が解けないという状態をもう少し具体的に表すと、「その問題を解くために必要な知識はあるにも関わらず、目の前の問題においてその知識をどう使って良いのか分からない」ということになります。

では、なぜ必要な知識があるにも関わらず、問題に対して適切に使うことができないのでしょうか。それは、応用問題が解けないお子さまは「知識の表面的な部分」しか習得できていないためです。

つまり、「底辺が4cm、高さが3cmの三角形ABCの面積を求めなさい」という問題であれば、“底辺×高さ÷2″という公式に数字を当てはめるだけで解くことができ、公式の意味、あるいは4cm、3cmという長さが具体的に何を示しているかを理解していなくても、「6cm2」という答えにたどり着くことができます。

一方で、「三角形ABCにおいて、底辺ABの長さが4cm、面積が6cm2であるとき、三角形ABCの高さCHを求めよ」という問題の場合は、型通りに数字を当てはめるだけでは解けません。問題で聞かれていること(高さCH)が具体的にどんなものであるのかを理解する必要がありますし、三角形の面積の公式について、単に“底辺×高さ÷2″という表面上の形式だけでなく、底辺や高さ、面積といった概念が具体的にどんなものであるかを理解できていないと、この問題に答えることは難しくなります。

応用問題に答えられるお子さまの場合は、頭の中で、あるいは実際に紙に三角形ABCの図を描きながら、「聞かれている高さCHとはこの部分の長さだな。底辺はABで4cmということが分かっていて、面積は6cm2だから、公式から逆算して…」と自分で既存の知識(=三角形の面積の公式)をどのように当てはめれば良いかを考えていくことができます。なぜならば、この場合にお子さまは、三角形という図形の性質についてきちんと理解できており、公式が何を意味しているのかを自分なりに解釈できているからです。

一方、公式に数字を当てはめる方法でしか問題を解いてこなかったお子さま(公式を丸暗記しているお子さま)の場合は、こうした応用問題においても「どのように数字を当てはめれば良いか」という視点でしか問題を見ることができません。そのため、「底辺と面積だけが分かっている場合の公式は知らない=自分には解けない」と感じて諦めてしまうか、4cmと6cm2という数字を使って当てずっぽうで計算するという場合がほとんどになってしまいます。

お子さまが応用問題を解けるようになるためには、「一見すると見たことが無いような問題でも、既存の知識を駆使すれば解けるようになる」という実感を持たせることが第一歩となります。もちろん、お子さまが公式を丸暗記せず、その意味を理解しながら学べるようになることが最終的なゴールではあるのですが、公式の意味をきちんと理解して使うことは公式を丸暗記するよりも労力が要る(=面倒くさい)と感じるお子さまも多く、「丸暗記ではダメだよ。ちゃんと理解しよう」とだけ伝えても、面倒くささが勝ってそのまま丸暗記を続けてしまう場合が多くなっています。

ですので、お子さまが「丸暗記よりも、ちゃんと理解した方がメリットが大きい」と感じられるように、
 

①「初見の問題でも、公式(既存の知識)を使えば解ける」という実感を持たせる
②初見の問題でも公式(既存の知識)を使うと解くことができるが、そのためには公式を丸暗記するのではなく、きちんと意味を理解した方がより問題が解きやすくなることに気付かせる


という2つのステップで指導を進めていくことがポイントになります。

上述の三角形の面積の公式の例で言えば、まずは先生が実際に問題を解いてみせて、既に習っている三角形の面積の公式だけで解けるということを示します。それから類題や他の応用問題を何度か解かせて「典型的な問題以外でも、三角形の面積の公式だけで解ける問題はたくさんある」という実感を持ってもらいます。(ステップ①)

続いて、台形やひし形の面積の単元に進んだら、公式を教える際に「丸暗記するのではなく、なぜそうなるのかをきちんと理解しよう」とアドバイスしながら基本問題から応用問題へと進みます。もし三角形の面積で応用問題を解いた時(ステップ①)よりもスムーズに解けていたら、「丸暗記じゃなく、きちんと公式の意味を理解しているから応用問題も解けたね」などと声を掛け、公式の意味を理解することのメリットをお子さまがより実感しやすいようにアシストしていきます。

公式を丸暗記ではなく理解しながら習得することは、一朝一夕にできるようになることではありません。お子さまが「丸暗記しない方が良い。ちゃんと理解しよう」と心から思えるまで、ステップ①と②を根気良く続けていく必要があります。

また、公式をきちんと理解した上で習得したからといって、すぐにどんな応用問題でも解けるようになるわけではありません。公式を理解できたら、次は応用問題をたくさん解いて、公式を使いこなす力(アウトプット力)を高めていく必要があります。

ただし、公式の意味を理解していない状態で応用問題をたくさん解いても、アウトプット力はなかなか伸びません。アウトプット力を伸ばす際には、「まずは公式の意味を理解する→その上でたくさん応用問題に当たる」という順番が非常に大切です。

というのも、知識の土台が無いままに応用問題をひたすら解いてしまうと、結果として「応用問題のパターンをただ丸暗記する」という勉強方法になってしまいます。お子さまや保護者さまの中には、“応用問題が解けないのは、応用問題の演習量が足りないからだ”と考えて、土台となる知識理解が無いままにひたすら演習に取り組む方もいらっしゃいます。ですが、この方法だと既存の応用問題の膨大なパターンをただ覚えていくだけになってしまうため、学習の効率も非常に悪く、オススメできる勉強法とは言えません。

もちろん、旧帝大レベルの難関校くらいまでであれば、こうして虱潰しに問題のパターンを暗記していく方法でも時間さえかければ何とかなる場合はあります(ただし、膨大な時間が必要です)。ですが、東大・京大などの超難関校になると、これまで一度も出題されたことの無い、完全にオリジナルの超高難易度の問題が出題されるため、これまでに出題された応用問題のパターンをいくら暗記したとしても太刀打ちできません。

つまり、「知識の土台が無いまま、応用問題のパターンを暗記していく」という勉強方法は、

・膨大な時間が掛かってしまう
・超難関校には太刀打ちできない


という理由からあまりオススメできませんので、ぜひ基本に忠実に、「しっかりと公式や定理を理解する→応用問題で使いこなす」という順序で勉強を進めていただきたいと思います。