【実話】ADHDグレーゾーンの浪人生…読書好きなのに国語が苦手な原因は?

この記事では、プロ家庭教師メガジュンをご利用いただき国立大学に見事合格したNさんの実例を紹介していきます。

ADHDグレーゾーンのNさんは、読書好きにも関わらず国語で点数が取れないことが大きな悩みでした。
その背景には、ADHDの不注意特性だけではなく、Nさんの生い立ちゆえの自信の無さなど、様々な要素が関係していました。

このケースでは、Nさんの性質を徹底的に分析し、勉強方法だけでなく本人の自信や受験への向き合い方といったメンタル面からもアプローチしたことが大きな特長となっています。

苦手意識やコンプレックスが大きく気持ちが前向きになりづらい方や、苦手科目を克服したいと考えている方、プロ家庭教師を検討している方にオススメの記事となっていますので、ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。

発達障害・ギフテッド専門のプロ家庭教師
妻鹿潤
・16年以上1500名以上の指導実績あり
・個別指導塾の経営・運営でお子様の性質・学力を深く観る指導スタイル
・yahooやSmartNews、Newspicksなどメディア向け記事も多数執筆・掲載中

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ADHDグレーゾーンの浪人生の課題

ADHDグレーゾーンの浪人生の課題

Nさんは国立大学の理系学部を目指しており、現在一浪中です。
現役生のときも同じ大学を受験しましたが合格には至らず、すべり止めの私立には合格したものの、第一志望へもう一度チャレンジしたいという思いから浪人することを決断しました。

最初にご連絡をいただいたのはNさんのお母さまからで、「国語の点数がなかなか伸びないので見てほしい」というご相談が10月にありました。

10月のご相談となると時期としてはやや遅い印象を受けますが、Nさんの志望は理系学部であり、二次試験で必要となる英語・数学・理科については既に十分対策ができていました。残すところは共通テストで必要な国語のみというところまで来たものの、その後伸び悩んでいたため、ご相談に至ったという経緯でした。

また、お母さまのお話によると、NさんにはADHDの特性が見られるようで、WISC-IV知能検査(※)も受けたことがあるとのことでした。ただ、診断結果はADHDではなく、いわゆるグレーゾーンに該当するものだったそうです。

※WISC-IV知能検査…言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の4つの指標と、それらの総合点である全検査IQ(FSIQ)を測定することができる知能検査(16歳以下対象)で、子どもの発達障害の診断の際に最も広く用いられています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

WISC-IVの詳しい数値(指標得点)もお伺いできればNさんの性質についていくつかの仮説が立てられると考えましたが、検査を受けたのは中学生のときであり、詳しい診断結果は残っていないとのことでした。

また、5年以上前の診断ですと、その後の経験により特性の表れ方や性質も変化する可能性があります。
そこで私は、ADHDグレーゾーンであることは参考情報として留め置き、現在のNさんの様子を詳しく観察することで性質を見極めていくことにしました。

併せてお母さまからは、Nさんには先延ばし癖や逃げ癖があるということも伺いました。面倒なことや苦手なことを後回しにする傾向が顕著で、受験に関しても9月ごろになってやっと本腰を入れ始めたとのことでした。

とはいえ、国語以外の模試の結果を見せていただくと、第一志望の国立大学も十分合格圏内でしたので、ポイントは苦手な国語に対するモチベーションをいかに上げていくかであるように思いました。

得意な科目はモチベーションも上がりやすくどんどん伸ばせる一方、苦手な科目についてはモチベーションが上がらず、さらに苦手意識があるため勉強してもなかなか知識が定着しないというのはよくあるケースです。

こうした一般的な事例をベースにしつつ、Nさんが持っているADHD的な特性や先延ばし癖を踏まえながら、Nさんに合った学習計画を立てていくことを第一の目標としました。

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「国語=センスで解けばよい」は間違い

「国語=センスで解けばよい」は間違い

Nさんと実際にお会いするまで、私はてっきりNさんのことを「理系志望にありがちな、文章を読むこと自体に苦手意識がある生徒さん」だと思っていました。

ところがNさんとお話ししていくと、趣味は読書で、小説だけでなく新書なども読むというかなりの本好きであることがわかりました。(事前のお母さまとのヒアリングで聞き取るべきところ、「理系志望」というバイアスに私がすっかり囚われてしまっていました…今後の改善点です)

「本は好きだけれど、教科としての国語は点が取れないため嫌いである」というのがNさんの状況でした。
読書好きなのに国語が苦手という生徒さんは一定数いらっしゃいますが、その原因のほとんどは「国語はセンスで解くもの」という誤った認識によるものです。

もちろん、文章を読み解くためにはある程度のセンスが必要です。
幼稚園の頃から本を読むのが好きな子もいれば、小学校に上がってもなかなか文章が読めない子もいるのは、言語理解の力に生まれつき差があるためです。

言語理解の能力が生まれつき高くなく、さらに本を読む経験が少ないという環境的な要因が加わってしまうと、いわゆる“読解センス”の不足によって国語が苦手になってしまいます。
読解問題の本文を読むことすら苦痛であるという方は、このタイプに該当します。

一方でNさんの場合は、幼いころからよく本を読んでおり、中学生までは国語でも点数が取れていたとのことでした。WISC-IVの検査結果は残っていませんでしたが、おそらく言語理解指標の数値は高かったのだと思います。

それでも国語の点数が伸び悩んでいるのはなぜか。それは、読解センスに頼りきりで、「問題を解く」というテクニックを磨いてこなかったためと考えられます。

芥川賞作家である羽田圭介さんは、「自身の作品がテスト問題になっていたので解いてみたら、全く正解できなかった」と仰っていました。つまり、作品を味わうこととテストで正答することは全くの別物であり、作品のことを最も理解しているはずの著者ですら受験国語の問題には正答できないのです。

また、作品解釈とテストにおける正答の乖離は、記述式よりも選択式の試験でより顕著になります。記述式であれば、たとえ出題者が想定した通りの回答でなくても、「○○の要素に触れている」という理由で部分点がもらえることもあります。

ですが、選択式の試験の場合は、正解以外を選べば0点です。
Nさんは理系志望ですので、国語は選択式の試験である共通テストでしか使いません。そのため、部分点の無い共通テストでNさんの点が伸び悩むのは当然の結果とも言えるのです。

特に共通テストの国語には、センター試験、さらには共通一次試験の時代から脈々と受け継がれてきた「選択肢のクセ」があります。選択肢1~5は何が同じで、何が違うのかに着目できれば、共通テストの問題は格段に解きやすくなります。

元々の読解センスが高い生徒さんであれば、このコツをつかむだけで共通テスト国語の点数はすぐに伸ばせます。
読解センスがあまり無い生徒さんの場合は、「文章を読むとはどういうことか」からスタートしなければなりませんが、Nさんの場合はこのステップが不要でしたので、現代文(評論・小説)については1か月ほど演習を重ねることで50点から80点へと点数を伸ばすことができました。

Nさんは、古文・漢文についても非常に厳しい状況にありました。
それも当然で、高校の3年間と浪人中の数か月間、全く勉強をしてこなかったと言うのです。

理系志望の生徒さんにとって、共通テスト国語の古文・漢文は貴重な得点源です。
大抵の学校や塾では、理系志望だからこそ古文・漢文には力を入れるよう指導され、Nさんの通っていた高校や塾でも例外ではなかったそうですが、それでもNさんは気が進まないからと一切勉強していなかったそうです。

なぜそれほどまでに古文・漢文を忌避するのかを聞いてみたところ、「とにかく興味が無い・やる気が出ない」とNさんは答えました。特に古文単語や漢文の句形の暗記が苦痛で、単語帳を開く気にもならないと言います。

確かに現代文の評論や小説に比べれば、古文や漢文の題材は大きな展開も無く退屈かもしれませんが、そうは言ってもここで失点してしまうのは非常に勿体無いため、何とかしてNさんには古文・漢文でも点数が取れるように頑張ってもらいたいと思いました。

受験まで1年以上時間があれば、Nさんが最近ハマっている漫画やアニメと古典文学を関連付けたりして興味を持ってもらうなどの方法もありましたが、残念ながら共通テストまでは残り3か月ほどしかありません。

そこで私は、

・周りの理系志望の受験生は必ず古文・漢文で得点してくること
・現代文は伸びたとしても、古文・漢文で点数が取れないと±0になってしまうこと

をNさんに率直に伝えることにしました。

また、単純な暗記は誰でも面倒で苦痛を感じるものなので、語源を調べたり、例文ごと覚えたりしてストーリーと関連付けながら覚えると良いというアドバイスをしました。
Nさんには毎週の授業で小テストを行い、限られた時間でしっかりと知識を定着させるという正攻法で頑張ってもらうことにしました。

最初は渋々取り組んでいたNさんでしたが、1か月ほど経った頃から古文や漢文も前向きに取り組んでくれるようになりました。
この時期はちょうど現代文の点数が伸び始めた時期で、Nさんが国語に対する苦手を克服し自信を取り戻しつつある時期でもありました。

Nさんが古文・漢文を頑張れるようになった理由には、指導を始めて1か月が経ち、講師である私への信頼度が高まったこともあると思いますが、現代文で自信がついたことも大きな要素になっているように思えました。

そこで私は、さらにNさんに前向きに受験勉強に取り組んでもらうためにも、改めてNさんの“自信”について深く観察していくことにしました。

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自信が無いのはなぜ?

自信が無いのはなぜ?

Nさんの指導を始めた当初から、私はNさんの自信の無さが気がかりでした。

お母さまが仰っていたADHD的な特性や先延ばし癖、逃げ癖ももちろんありましたが、それ以上にNさんはいつも何となく後ろ向きで、「やればできる」という感覚が薄いように感じました。

Nさんの自信の無さを象徴するエピソードがあります。

お母さまからご相談をいただいた当初、私たちはNさんに週1回の90分授業を提案しました。入試までの時間は限られていますし、Nさんは予備校にも通っていたため、授業内でしっかり完結できるようにと考えてのご提案でした。

お母さまもその方向でとお返事されたのですが、Nさん本人が「90分も集中が続く気がしない。60分にしてほしい」と仰ったのです。

60分と90分では取り扱える学習量がかなり変わります。
受験まであと3か月と考えると90分授業が良いのは明白であり、私たちも何度かNさんに説得を試みましたが、それでもNさんは「60分で良い」と譲りませんでした。

そこで折衷案として、「一旦は60分授業で進めて、集中が続きそうなら30分延長する。その判断はNさん自身に任せる」という形で進めることになりました。

初回授業では、まずNさんに時間を気にせず現代文の問題を解いてもらいました。すると予想に反してNさんは、60分を超えても集中して問題を解き続けていたのです。

本人があれだけ自分は集中が続かないと言っていたので、私もかなり心配しながら問題を解く様子を観察していましたが、時間経過とともに集中力が落ちている様子も無く、最後までしっかりと解ききることができました。

記述式の問題でしたが全くの的外れといった解答も無く、国語がどうしようもなく苦手という印象も受けなかったため、事前情報とのギャップに非常に驚きました。
ただし、時間が掛かり過ぎている点や、やや主観的な解答(本文に沿ったものではなく、Nさんの思い込みが混ざった解答)が見られたため、そこに絞って対策すれば十分苦手を克服することが可能であるように感じました。

「すごく良い感じに解けていますよ。これなら共通テストもきっと大丈夫です。集中も続いていましたし、自信を持ちましょう」

このように私が伝えるとNさんは「そんな風に言ってもらったのは初めてです」と戸惑った様子で答えました。

一連の流れから、Nさんは自分の能力を実態以上に低く捉える傾向にあり、それが自信の無さにつながっていると考えました。
自信の無さがモチベーションの低さにもつながっているように見えたので、学力の向上だけでなく自信を付けることも大きな目標の一つとすることにしました。

Nさん自身が自分を卑下しすぎず現状を客観的に捉えられるよう、できていることはしっかり褒めるとともに、できていないことについても本人が過大に受け取らないよう注意しながら伝えることを意識しました。

また、時間の無い中ではありますが、授業以外でもNさんや保護者さまとコミュニケーションを取り、本人の心を傷付けてしまわないよう気を付けながら、そもそもなぜNさんが自信を失ってしまっているのかという原因を探ることにも取り組んでいきました。

2か月ほど授業を続けていると、Nさんが自信を失っている原因が少しずつ見えてきました。
Nさんの自信の無さの要因は、以下の4点にまとめることができました。

①「自分はADHDであり、集中が苦手」という意識が非常に強い
②古文・漢文を勉強しなかったことで浪人したことへの後悔
③高校で国語の点が急に下がってしまったショック
④学習計画を母親に作ってもらっている後ろめたさ

まず、「①『自分はADHDであり、集中が苦手』という意識が非常に強い」という点については、中学生というアイデンティティの形成に大きく関わる時期にWISC-IVを受けたことで、確定診断には至らない程度の特性の強さであるにも関わらず、実態以上に「自分は集中ができない」と思い込んでしまっているようでした。

もちろん、興味の無いことや気分が乗らないとき、他に気になることがあるときにはNさんは集中が途切れがちでしたが、それ以外の場面においては問題無く集中できていましたし、集中しやすい環境を整えることでこれらの困りごとは解消できます。

また、ADHDの方は興味があることについてはとことん集中できる(Nさんも好きな小説であれば1日中読み耽ることができます)という特性も持っているため、自分の特性を正しくとらえることが重要であるとお伝えしました。

②③については、いわゆる「失敗体験」ということになります。
人生に失敗は付きものですが、18歳の若者にとって志望校に落ちるというのは非常にショックな出来事であり、その原因が自分でもわかっている(=古文・漢文をサボったから)からこそ、間違った判断をした自分を責めて自信を失ってしまっているように見えました。

ありふれた言葉ではありますが、失敗は成功の元です。
原因が分かっているのであれば、次はその原因を克服できるよう頑張ろう!と思えれば良いのですが、そう簡単に前を向けないのも人間の性です。ただ、Nさんは実際に「あとは国語だけ」というところまで自力でたどり着けていますので、そこは自信を持つように何度も繰り返し伝えました。

③国語の点が急に下がったことについては、それまで国語が得意だった分ショックが大きくなってしまっているものの、前述のように作品を味わうことと受験のテクニックは別物であることや、そもそも高校国語は中学校の国語とは段違いに難しく、文系の生徒でも苦手と感じることがあることを説明しました。

自分の状況を正しく認識することは、自信を回復するための第一歩です。

人は、落ち込んだり自信を失ったりすると、自分や周りの状況を冷静に見ることができず、ついつい後ろ向きな捉え方をしてしまいます。

物事の捉え方が偏ってしまうことを「認知の歪み(認知の偏り)」と呼ぶことがありますが、Nさんはまさに自分自身に対する認知が歪んでしまっている状態にあり、それが勉強へのモチベーションや集中力にも影響していました。

「Nさんの状況は、Nさん自身が思っているよりも悪いものでは無いし、思い込みを外して自分を見てみることも大切ですよ。ほら、模試の点数の推移もきれいな上向きのグラフになっています」

客観的なデータを示しながら説明すると、Nさんは安堵の表情を浮かべました。
これまでも模試のデータは見ていたはずですが、自信の無さゆえに「D判定」といったダメな部分ばかりを見ていた、とNさんは話してくれました。

④の学習計画については、Nさんは計画を立てるのがどうしても苦手なため、浪人中の家庭学習の時間割はすべてお母さまが作成されていました。そのこと自体は決して悪いことではなく、勉強に集中するために学習計画の作成は先生や保護者さまに任せるというのはよくあることです。

一方でNさんは、学習計画についても自分で責任を持ってやり遂げたい(やり遂げるべき)という思いを持っており、母親頼みになっている現状に後ろめたさを感じているようでした。

私は、Nさんの「自分で責任を持ちたい」という姿勢は素晴らしいものであると伝えつつも、今は合格することが何よりも大切であり、頼れるところは頼る必要があることを冷静に伝えました。

一方で、「いつまで親が手を貸し続けるのか」ということは、発達障害の生徒さんにとって非常に大きな問題です。
というのも、大学生になれば、授業の選択からテスト勉強まで、高校時代や予備校時代と比べてより一層自立的に取り組むことが求められます。

大学生になっても授業選びやテスト勉強を親がサポートするのか、就活はどうするのか、働き出してからは…?

人はいずれ自立し、仕事や生活を自分自身でコントロールしていかなければなりません。中学や高校でのスケジュール管理やテスト勉強の計画作りは、その練習であると捉えることもできます。

Nさんはこれまで何度もスケジュール作りに挑戦しては上手くいかず、最終的にお母さまが計画を作るというプロセスを繰り返してきたそうです。
Nさんが「このままでは自分で何もできない大人になってしまう」と危機感を持っているのは非常に健全な感覚で、私も何とかしてあげたいと強く思いました。

とはいえ今は目前の受験が最優先ですので、Nさんには大学に合格した後に改めてこの問題に対処していくことを約束しました。

Nさんのスケジュール作りがなぜ上手くいかないのかを分析するとともに、お母さまがスケジュールを全部作ってしまうのではなく、Nさんにスケジュール作りのプロセスを見せて真似しながら作れるように、それが難しそうならプロ家庭教師がスケジュール作りの手本を見せる形を提案しました。

Nさんの懸念について私からお母さまに伝えたところ、良かれと思ってやっていたことが結果としてNさんの自信喪失につながっていたことにショックを隠せない様子でした。

ですが、お母さまともじっくりお話をしていると、Nさんが幼いころから先回りしてやってあげることが多く、お母さま自身も「今のは過保護だったのでは」と感じることが何度かあったそうです。

お子さまの教育について関心が高いご家庭であるほどこうした傾向は強く、お子さまのためを思ってのことであるが故に自覚もしづらい状況にあります。
幸いなことにNさんのご家庭では、Nさんにもお母さまにも自覚があったため、大学入学後に少しずつ改善していけるようお話しすることができました。

こうしたお話ができたのも、Nさんやお母さまと日々コミュニケーションを取る中で、しっかりと信頼関係が構築できたからこそだと思っています。
生い立ちや内面の深い部分を聞き取ることは、ともするとその人の心を傷付けてしまうこともあります。

無理に聞き出すのではなく、「この人なら話しても良いな」と思っていただけることが大切ですし、そうした信頼に足る人間だと思っていただけることはプロ家庭教師としての責務だと考えています。

受験は人生の一大イベントです。
Nさんとのやり取りを通して私は、授業だけのお付き合いだけではなく、生徒さんの人生そのものに寄り添うプロ家庭教師でありたいと改めて決意しました。

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認知能力と非認知能力は相互作用する

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受験を目前に控えた生徒さんたちに年末年始はありません。
直前期では寝る間も惜しんで勉強する生徒さんも多く、私たち講師も「体調管理だけは気を付けて」とアドバイスすることが多くなります。

Nさんも例外ではなく、夜遅くまで勉強しているせいか授業中にうとうとしてしまうことがありました。
顔を洗ったり身体を動かしたりしてもらうこともありましたが、直前期ですのであまり無理はせず、時には授業を30分早く切り上げて睡眠を取ってもらうこともありました。

10月時点のNさんであれば、このような意欲的な姿は見られなかったのではないかと思います。自信を取り戻す前のNさんは「自分にはどうせ無理だから」という意識がどこかにあり、何が何でも合格する!という前向きさが見られませんでした。

ですが受験直前期のNさんは、私が何も言わなくても勉強に取り組んでいましたし、頑張れば志望校に合格できるのだという確固とした自信を持っているように見えました
点数の伸び以上に、Nさんにとって重要な成長だったように思います。

共通テストの当日、Nさんは英語の解答欄がずれてしまうというハプニングに見舞われたそうですが、集中が途切れることも無く目標点を取ることができました。
国語についても得点率8割という、志望校に十分合格できる結果を残すことができました。

その時の気持ちをNさんに聞いてみると、「これまで頑張ってきたのだから、解答欄がずれたくらいで慌てなくても大丈夫だと思った」と話してくれました。
自分は集中が続かないから60分授業が良いと言っていたNさんとは思えないほど頼もしい言葉です。

「Nさん、ここ数か月ですごく自信がつきましたよね。自分でもわかりますか?」
「はい。国語の点が伸びたのがすごく心の支えになっていて…自分でもできるんだと思ったら、いろいろ前向きになれました」

Nさんは続けて「大学に合格したら、授業の選び方やスケジュールの作り方も先生に教えてもらいたいです。自分でできるようになりたい」と語ってくれました。

Nさんは以前よりも声も表情も明るくなっていて、私はNさんが自信を取り戻してくれて本当に良かったと心から思いました。

受験の結果はもちろん合格で、浪人生の一年間で頑張ってきた成果がしっかりと実を結ぶ形となりました。

Nさんの事例から、私は改めて自信の重要性に気付くとともに、心身ともに成長途上にある生徒さんにとって「成功体験」がどれほど大切かを再認識しました。
彼ら/彼女らにとっては、単にテストで良い点を取るという経験だけでなく、「努力する→成果が現れる」というプロセスが大切なのだと思います。

皆さんは、非認知能力という言葉をご存知でしょうか。
非認知能力とは、学力テストでは測れない能力のことで、具体的には「物事に対する考え方や姿勢」「協調性」「コミュニケーション能力」といったものが該当します。これに対して、テストで測ることのできる知識や思考力、計算力を認知能力と呼びます。

認知能力と非認知能力は相互に関係します。
Nさんの例を見ても、読解力という認知能力が高まったことで自信やモチベーションという非認知能力が高まり、さらにそこから勉強を頑張ることで認知能力も高まるという好循環が現れていました。

<認知能力/非認知能力の好循環>
①認知能力が向上する
②自信が付くことで非認知能力が向上する
③非認知能力が向上し、さらに努力する
④認知能力が向上する(②へと循環)

非認知能力こそが土台であり、優先して育むべきであるという考えの方もいらっしゃいますが、私はそのようには考えていません。
生い立ちや性質的に非認知能力が伸びにくいお子さまなのであれば、先に認知能力を伸ばしてあげるのも一つの方法だと考えています。

Nさんのように、自分でもできるという成功体験(=認知能力の伸び)があって初めて非認知能力が伸びる方もいらっしゃいます。
いわば認知能力が非認知能力を引っ張り上げるような形ですが、そうした成長の形の方が適しているお子さまはたくさんいらっしゃいます。

認知能力と非認知能力は、どちらか一方だけではどこかで限界が来ます。
入試自体は認知能力を測るものですが、その裏には入試で測ることのできない力(=非認知能力)が密接に関係していることを意識し、両方が相互作用的に伸びていけるようサポートしていくことが大切です。

Nさんの事例を通して、私は改めて認知能力と非認知能力の相互関係を実感するとともに、その重要性を再確認しました。

最後に、Nさんのお母さまからのメッセージをご紹介してこの記事を終えたいと思います。

***

先生のご指導のお陰で、無事に第一志望の大学に合格することができました。
10月という差し迫った時期のご相談から始まり、短い期間にも関わらず、心配していた国語の点数がここまで伸びたことには感謝しかありません。

授業以外の相談事についても、いつも迅速かつ的確なアドバイスをいただき、正直なところ、ここまで丁寧に対応していただけるとは思っておらず、家族ともども驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。

Nの自信の無さについて指摘を受けたときには、私の関わり方についても助言をいただき、厳しいお言葉ながらNの成長にとって必要なものであると理解し受け入れることができました。

自分でも薄々と感じていた過保護さ・過干渉さをはっきりとご指摘いただいたことで、Nの自立にとって本当に大切なことは何か、親としてできることは何かを立ち止まって考えることができました。

今、Nは大学入学に向けて準備中ですが、できるだけ口出しや手出しはせず見守ろうと頑張っています。

また、以前お話ししていたとおり、大学入学後もスケジュール作成やタスク管理のサポートを引き続きお願いできますと幸いです。

3か月間、本当にありがとうございました。
今後ともご指導・ご助言のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

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