【実話】ADHDで書字障害(LD)、海外子女のRさんは日本の高校に合格できる?

この記事では、私がこれまで指導させていただいたお子さまの実例をご紹介します。

お名前などは仮名を用いていますが、指導の内容や合格への道のりは実際のものとなっています。

発達障害や海外子女の方に特有のお悩みとその対処方法について具体的にご紹介していますので、同じような困りごとを感じておられる方や、プロ家庭教師を検討している方はぜひ最後までお読みいただき、参考にしていただけますと幸いです。

【執筆・監修】
発達障害専門の受験プロ家庭教師 
妻鹿潤
・16年以上1500名以上の指導実績あり
・個別指導塾の経営・運営でお子様の性質・学力を深く観る指導スタイル
・yahooやSmartNews、Newspicksなどメディア向け記事も多数執筆・掲載中

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ADHDで書字障害(LD)の傾向あり…海外子女のRさんのお悩みは?

ADHDで書字障害(LD)の傾向あり…海外子女のRさんのお悩みは?

Rさんは、お父さまのお仕事の都合で現在アメリカに在住しています。
現地の日本人学校に通学しており、さらに日本人向けの塾にも通っているとのことでした。中学卒業後は日本に帰国し、関西圏の高校に進学したいと考えておられます。

RさんはADHDの傾向があり、小学2年生と5年生の時にWISC-IV検査(※)を受けたことがあるそうです。指導の参考とするため小5の時の検査結果を見せていただいたところ、詳細は以下のとおりでした。
※WISC-IV検査…子どもの知能指数を測るための検査で、主に発達障害の診断などのために用いられる。4つの指標から総合的な知能指数(IQ)を測ることが可能。

詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。

WISC(ウィスク)結果

言語理解が非常に高い一方で、処理速度の低さが目立ちます。

全検査IQは99と問題無い数値だったためADHDの確定診断は出ませんでしたが、

・集中できない、注意散漫である
・字や図形を書くことが苦手

といった点においては、ADHDや書字障害(LD、学習障害)の傾向があるとお医者さまに言われたそうです。

お母さまが我々にお問い合わせをくださったのは、これらの特性が原因で勉強が苦手になっているのではないか、とのお悩みからでした。
現地の日本人学校でも、習熟度別学習など手厚くフォローはされていたようですが、ADHDやLDに特化した指導ができる先生はなかなかおらず、オンラインでも受講可能ということで我々の元へご連絡をいただきました。

詳しくお話をお伺いすると、お母さまが把握しておられるRさんの困りごとは以下のとおりでした。

<ADHD・LD傾向のあるRさんの困りごと>
・英語が非常に苦手
・字を書くのが苦手
・複雑な計算をよく間違える
・宿題をよく忘れる
・注意散漫で、ぼんやりしてしまうことがある
・日本の高校受験を予定しているが、関西の高校の情報が無い

お話を聞く限りでは、これらの困りごとは注意欠如タイプのADHDの特性が要因であるように考えられました。
しかし、一口にADHDといってもお子さまによって具体的なサポートの方法は変わってきます

また、RさんはWISC-IV検査において言語理解の指標が非常に高かったため、この点を強みにして「苦手な英語の克服」「高校受験の突破」を目指すことは十分に可能と考えました。

併せて、海外にお住まいということで、学校や塾のスタンスや授業の進め方が日本とは異なる場合もあるため、こういった点にも留意しながらRさんへの指導を始めることになりました。

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ADHDで書字障害(LD)のRさん…アメリカの日本人学校の英語のレベルは高すぎ!?

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Rさんの指導を始めて私がまず驚いたのは、英語のテストのレベルの高さです。

日本の学校の場合、定期テストでは教科書からの問題が8割、残りの2割が初見のチャレンジ問題といったパターンが多いのですが、Rさんの学校の英語のテストでは、教科書からの出題は2割だけで、残りは全て初見の長文問題でした。

一般的な日本の中学生が解くと、4割も得点できないほど高いレベルのテストだったのです。

また、Rさんが通っている塾も、カリキュラムの進行が非常に早く、課題も膨大でした。

というのも、現地の塾は帰国後に「帰国子女枠」で受験する生徒がメインターゲットであり、11月には受験が始まります。
そのため、学校と比べてかなり前倒しで授業が進むほか、レベルの高い問題に対処するために課題も非常に多くなっていたのです。

ADHD傾向のあるRさんは、優先順位をつけることが苦手なため、テストの前は課題をこなすので一杯一杯になってしまっていました。
ペースの速い授業にも付いていくのがやっとで、わからないことや難しい内容になると集中できず、ついつい別のことを考えてしまうようでした。

Rさんは帰国子女枠の受験ではなく、一般枠での受験を考えています。
そのため、ハイレベルな英語の問題を解くことはRさんの高校受験においては必要ありません。

そこで私は、Rさんに必要な英語のレベルを精査し、解くべき問題と解けなくても良い問題を仕分けすることにしました。

英語の宿題が出されたら、まずは私が目を通し、問題を仕分けします。
難しい問題については答えを写してもらい、Rさんが解くべき問題だけをオンライン授業で一緒に解いていきます。これによって、難しい問題に時間を取られ過ぎることなく、実力に見合った問題にじっくりと取り組むことができるようになりました。

「問3,問5,問6については答えを写して良いですよ」
「え、そんなことして良いんですか?」
「大丈夫です!この問題、Rさんと同学年の日本の子だと、全く解けないと思いますし、志望校でもここまで求められないので、スキップして大丈夫です」
「そうなんですか!周りの子が難なく解いているので、解けて当たり前だと思っていました」

Rさんは英語が苦手でしたが、あまりにもハイレベルな問題を解かされるために自信を失っている側面もありました。
ですので、まずは自信を付けてもらうためにも、解ける問題を中心にチャレンジしてもらうことにしました。

さらに、解くべき問題と難しすぎる問題について、最初のうちは私が仕分けしていましたが、慣れてきてからはRさん自身に仕分けしてもらうようにしました。

問題の難易度を見極める力を付けることで、テストや受験本番でも問題の取捨選択ができるようになります。

受験においては100点満点を取る必要はありません。合格平均点を得点するためには、問題の取捨選択ができることが非常に重要になります。

お母さまはRさんの英語について、「その場で教えてもらうとわかるようだけれど、家に帰って自分で解くと解けず、知識が定着してないように見える」と仰っていました。
英語が定着しないのは、基礎からの積み上げができていないことが要因であるケースが多いのですが、Rさんの場合もこれに当てはまっていました。

アメリカの日本人学校や日系の塾の多くでは、非常に高度でハイペースな授業が行われています。生活で使う言語のため、内容が難しくなるのは一定仕方が無いのかもしれませんが、文法の基礎が身に付いていない生徒にとっては、「置いてきぼり」の状態になってしまいます。

また、RさんはADHDによる注意欠如の特性も持っています。
前提となる基礎知識が無いまま授業を聞いても、理解できないため集中できず、「わからないから面白くない、だから集中できない」という負のスパイラルが生じていました。

なので、基礎の積み上げからやり直し、「わかる!」という感覚をまずは掴んでもらうことにしました。

理科や社会と違い、英語は積み上げ型の科目です。
過去完了形でつまずいているのであれば、過去形に戻って復習し、さらに過去形も不安であれば現在形や三単現からおさらいします。

Rさんは、英文法の基礎となるSVOの概念の理解があやふやなまま進んでいたため、全体的に英語が身に付きにくい状態でした。
ですので、長文でも文法でも、どんな問題であってもSVOの視点から解説し、Rさんがしっかり納得できるまで丁寧に説明しました。

一度SVOの概念が理解できると、次回からはすんなりと知識が定着するようになりました。Rさんは以前ほど英語に抵抗感が無くなり、日本の中学生の平均かそれ以上の実力に追いつくことができました。

もちろん、塾や日本人学校の英語のレベルは相変わらず高いのですが、Rさんに必要な学力は十分身につけられているので、英語の苦手は克服できたと言って良いでしょう。

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ADHDで書字障害(LD)のRさん…処理速度と学習障害の関係は?

v

書きの困難(LD、書字障害)に関しては、英語の「uとv」や数字の「1と7」など、形の似ている文字を間違いやすいといった特徴がありました。

また、漢字を左右反転して書いてしまったり、線や点の数を間違えてしまったりするなど、細かな部分まで注意が行き届かないという傾向もありました。

私は、これらは処理速度の低さが要因となっているものと考えました。
Rさんは字が枠からはみ出てしまうといった傾向もあったため、空間を把握する力もやや低いと思われますが、「文字だけがどうしても書けない」という純粋な書字障害というよりは、処理速度の低さによって「文字や図形の細かい部分を書き分けられない」という状態にあると分析しました。

実際に、Rさんに図形を描き写してもらうと、文字を書く時と同じようなミス(細かい部分の間違いや大きさの調整不足)がありました。
書字障害の場合は、図形の描き写しに関しては問題が無い場合もあるため、やはりRさんの書きの困難は処理速度の低さに起因するものと言えるでしょう。

処理速度の低さは生まれつきの性質ですので、そのものを改善することはできません。

文字の書き間違いや細かい部分のミスについては、「どんなところで間違いやすいか」をパターン化し、見直しの際に特に気を付けるという方法が効果的です。

uとvを間違えやすい場合は、見直しの際にuやvが出てくる解答欄だけ1回多く見直しするなど、シンプルかもしれませんがこういった地道な対応がポイントになります。

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漢字の書き間違いに関しては、Rさんの言語理解の高さを活かして対策することにしました。
言語理解の高いお子さまは、「言葉で世界を把握する」ことが非常に得意です。

ですので、

・漢字の部首はその漢字の意味を表し、部首以外の部分は音を意味することが多い
・例えば、「言(ごんべん)」の漢字は言葉に関連する文字であることを意味し、その右側は音読みの音を表している
(例)課〈カ〉、議〈ギ〉、認〈ニン〉など

といった説明をすると、それ以降、左右を逆に書く間違いはめっきり少なくなりました。

Rさんは本をよく読み、国語も読解問題などは得意なのですが、漢字の書き取りはあまり得意ではありません。

そのためお母さまは「暗記方法が合っていないのか、反復練習が足りていないのか…」と悩んでいらっしゃいました。

ですが、Rさんは、好きなアニメのキャラクターや歴史上の人物の名前については、非常に複雑な漢字でも易々と覚えて書くことができていました。
ADHDで集中しづらい特性を持つRさんにとっては、「興味を持てること」が集中できるかどうかのカギになっていたのです。

そこで私は、Rさんが漢字を暗記する際には、上述の漢字の成り立ちをお話しするとともに、Rさんが好きなアニメのセリフを使ったオリジナルの問題集を作成するなど、Rさんが興味を持ちながら漢字練習ができるよう工夫を行いました。

興味があるものをきっかけにして勉強に取り組んでもらう方法は、ADHDだけでなく、定型発達のお子さまにとっても効果的です。
「お子さまが今、何に一番興味があるか?」は指導者にとって非常に重要な情報ですので、保護者さまからもぜひ積極的に情報共有いただけると嬉しく思います。

また、Rさんは計算ミスも目立っていました。
+や×など、2つ以上の操作が必要な場合でも途中式を書かなかったり、計算メモがあちこちにバラバラに書かれていて、どれがどの式なのかが分からなくなっていました。

この解決方法は簡単で、

・計算は一つずつ行い、途中式を省略しない
・計算メモは一行ずつ、桁をそろえて書く

といったことを徹底してもらいました。

お母さまが指示してもなかなか言うとおりにできなかったそうですが、保護者さま以外の信頼できる大人の言うことであれば、素直に聞いていただける場合は多くあります。(保護者さまの子育てが悪いというわけではなく、中学生のお子さま特有のいわゆる“お年頃”ですので、あまり気にする必要はありません)

漢字や計算の直しについても、お母さまからやるように言うと気が進まない様子で、マイペースなRさんにしては珍しく機嫌が悪くなることがあったそうです。

わからないことに自分一人で立ち向かっても、わからない状態が続くのでイライラしたり、わからない自分が嫌になったりしてしまうことから、間違いの直しを嫌がるお子さまは一定数いらっしゃいます。

一方で、Rさんは私の授業で直しをすることについては特に嫌がることなく、むしろ積極的に取り組んでくれていました。

私が指導しながらの直しですと、程よくアドバイスがもらえて、必ず「わかった!」という状態にたどり着けるため、イライラや不安を感じることも少ないですし、何より“わかる”という楽しさを実感することができます。

また、Rさんはこちらの質問に対して、ときどき聞いていることと違う答えが返ってくることがありました。
「問1の前提条件はわかりますか?」と聞いた時に、「問3って一次関数の問題ですよね」といったように、Rさんの意識が向いたものについて気ままに話してしまうようでした。

一つのことに集中できず、いろいろなものに注意が移ってしまうのは不注意型ADHDの特性の典型的なパターンです。
悪気があって集中できていないわけではありませんので、「問3についてはそうですね。では、問1はどうでしょうか」と自然に話題を戻すのが良いでしょう。

また、おしゃべりが止まらなくなってしまったときには、「今は勉強の時間だから」と厳しく言うのではなく、それとなく勉強に注意を誘導していく方が望ましいと言えます。

会話のテクニックが必要な方法ではありますが、叱っても注意散漫は治りませんので、ADHDのお子さまに接する際には、「特性であることを理解し、怒らない」ということを心がけていただきたいと思います。

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ADHDで書字障害(LD)のRさん…膨大な課題への対処方法

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Rさんのもう一つの大きな困りごとは、膨大に出される課題への対応でした。

テスト前になると5教科とも大量の課題が出され、Rさんはそれをこなすだけで精一杯になり、まともにテスト勉強をする時間が取れないという状況が続いていました。

また、テスト前以外でも、日々の宿題をうっかり忘れてしまうことがありました。
優先順位を付けて課題に取り組むことや、宿題を忘れずに取り組むことが苦手なのは、いずれもADHDの不注意特性によるものと考えられます。

宿題を忘れてしまうことに関しては、毎日夜8時にアラームを掛け、その時間になったら必ずその日の授業で宿題が出たかを確認することにしました。
Rさん一人で取り組むのはモチベーションを保ちづらいので、8時になったら宿題を確認し、8時10分までには私にLINEで報告してもらうようにしました。

宿題の内容によっては私が難易度を判断し、解かなくてよい問題を仕分けすることもありました。授業は週に2回ですが、こういった日常的なサポートも業務の一環として丁寧に対応させていただいています。

宿題の報告だけでなく、必要に応じて日々の悩みや、その日の授業で分からなかったことの相談などもお聞きしています。
その場で対応することが難しくても、次回の授業で分からなかった点に特化した指導ができますので、こまめにお子さまや保護者さまと連絡が取れることは、指導者にとっても大きなメリットがあります。

テスト前の膨大な課題については、テスト週間の前からコツコツと取り組むようにしました。というのも、テスト前に出される課題は、テスト範囲に対応する問題集のワークですので、内容をあらかじめ予想することができます。

家に帰ってからまずは宿題をこなし、残った時間でテスト前に出されるであろう課題を消化していく、というのがRさんの勉強のスタイルになりました。

Rさんの家での勉強時間18:30 帰宅
19:00~20:00 夕食、自由時間
20:00~20:10 宿題チェック&報告
20:10~22:00 宿題 → テスト前課題
22:00~22:30 入浴
22:30 就寝

平日は1日当たり2時間ほど勉強時間が取れますので、そこからテスト前の課題に充てられる時間を逆算していきます。
毎日コツコツと取り組むことで、テスト前には余裕で課題を終わらせることができ、苦手なところをピンポイントで復習するというテスト対策が取れるようになりました。

また、テスト前に一気に問題集を解こうとすると、しばらく前に習ったところはほとんど記憶に残っておらず、問題を解くのに時間が掛かってしまうことがあります。
逆に、その日習ったことをその日のうちに復習すると、記憶の定着が促進され、テスト前に見直してもスムーズに思い出すことができます。

この記憶の仕組みはエビングハウスの忘却曲線と呼ばれ、「忘れかけたときに思い出す」ということの繰り返しによって、短期的な記憶が徐々に中期記憶・長期記憶へと定着していきます。

Rさんの場合、一義的にはテスト前の膨大な課題を効率的に捌くための方策でしたが、結果としてその日の復習もでき、さらにテストの予習もできるという状態になったため、以前よりもかなり効率的にテスト勉強を進められるようになりました。

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ここまででRさんは、

・英語の苦手の克服
・書きの困難やケアレスミスへの対処
・宿題や課題への対応

について、私の提案を素直に聞き入れ、日々の授業にも前向きに取り組んでくれていました。

お母さまも非常に協力的で、Rさんの様子を細かく私にお伝えいただくだけでなく、お母さまも前向きにRさんの様子を見守ってくださり、Rさんの「できる」「わかる」といった気持ちを最大限に尊重してくださいました。

Rさん自身は非常におっとりとした性格で、「先生、今日ね~」と授業の始めには朗らかにその日あったことをお話ししてくれました。
反面、疑問に思ったときは決して曖昧にせず、「ここが○○なのは何故ですか?」と自分が納得できるまでじっくり考えられる粘り強さもありました。

量をこなしてスピーディに!といった雰囲気はRさんには似合いませんが、じっくりとことん考えることが求められる場面においては、Rさんの良さを最大限に生かすことができます。

志望校を選ぶ際にも、このRさんの良さを生かせる校風や入試問題の高校を選ぶことを重視しました。

Rさんの志望校選びのポイント・課題が多すぎないこと
・生徒の自主性を大切にした、自由な校風であること
・Rさんの「なぜ?」にしっかり向き合ってくれるアカデミックな雰囲気があること
・入試問題がマークシート式が多いこと
・入試問題が、量ではなくしっかり考えることを求めるものであること

Rさんがアメリカで通っていた日本人向けの塾でも、日本の高校入試の対策はされていたそうですが、前述したように帰国子女枠での受験がメインターゲットであることや、関東圏以外の高校の情報が少ないことなどがネックになっていました。

受験において、志望校選びは最も重要といっても過言ではありません。
もし海外子女の方で、帰国後の地域の学校事情に詳しい人が周りにいない場合は、国内の塾やプロ家庭教師にオンラインで問い合わせるなど、積極的に情報収集することをおすすめします。

Rさんが帰国後に暮らす地域の高校について、私は徹底的にリサーチしました。

公立高校も含めいくつかの高校をご提案したところ、第一志望・第二志望とも私立高校を受験することでご本人・ご両親とも同意をいただきました。

私立高校は2~3コース制の場合が多いのですが、一番上の進学コースは部活動の時間が短く課題も多いため、いずれの高校も上から2番目のコースを目指すことになりました。

Rさんには、一時帰国した際に学校見学に行くことをお勧めしました。
校風・雰囲気が合うかどうかを確かめることができますし、実際に校舎を見て回り、先輩の姿を目にすることで、イメージが具体的になりモチベーションを高めることができます。

Rさんは学校見学の際、弓道部に体験入部したそうです。
歴史好きなRさんは憧れの弓道部にとてもテンションが上がり、「絶対にこの高校に行く!」と決意を新たにすることができました。

私が提案した高校はRさんが当初考えていた選択肢には無かったため、帰国後の授業では、「先生のおかげで○○高校に出会えて、すごく良かったです。合格できるように、これからも頑張りますね」とお話ししてくれました。

***
(RさんからのLINE)

今日は久しぶりに日本に帰国して、先生が言っていたとおり高校の見学に行ってきました。
オープンキャンパスの日ではなかったけど、高校の先生が詳しく校舎を見せて回ってくれたり、気になっていた弓道部の体験もさせてもらいました!

袴を着せてもらってめっちゃテンション上がったし、弓もへたくそだけど射ってみてすごく楽しかったです!アメリカに住んでると言うと、先輩たちが「すごい!」って言ってくれたけど、ちょっと恥ずかしいというか、やっぱり帰国子女だと目立つのかな~とも思いました。

元々選択肢には無かった学校だけど、先生のオススメで見つけることができてすごく感謝してます。

受験まで半年を切ったけど、合格できるよう頑張ります!
***

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ADHDで書字障害(LD)のRさん…いよいよラストスパート。塾の活かし方は??

ADHDで書字障害(LD)のRさん…いよいよラストスパート。塾の活かし方は??

Rさんはアメリカで日本人向けの塾にも通っており、そこでは理科と社会の授業を受けています。

夏休みを目前にしたある日、お母さまから塾の夏期講習についてのご相談を受けました。

***
妻鹿先生へ理科と社会の夏期講習についてご相談です。8月1日からお盆休みを挟んでの12日間、個別指導の夏期講習の案内がありました。

コマ数で言うと、

社会60分×9コマ
理科60分×11コマ

とかなり多いように感じたのですが、こちらは受講すべきでしょうか。塾への往復の時間などもありますし、先生のご意見を伺いたく連絡させていただきました。

どうぞよろしくお願いいたします。
***

このご相談を受け、私は受講するか判断するポイントは以下の4つであると考えました。

①内容はどんなものか
②金額はどうか
③理科と社会について、Rさんは自学自習できそうか
④移動時間はどれくらいか

まず、①夏期講習の内容については、復習中心ということでした。
中3の夏休みですと、2学期以降の内容を先取りするよりは、これまでの内容を総ざらいした方が受験対策としては得策
です。ですので、①については問題無いものと考えました。

②金額についても、実態としては個別講習なのですが、理社については他に受講生が無いので結果的に個別講習になっているとのことでした。
そのため、個別講習にしてはかなり格安で受講できるようで、ご家庭の金銭面的にも問題無しとのことでした。

③自学自習の可能性ですが、社会についてはRさんの得意分野ですので問題ありません。ですが、理科の暗記以外の内容(物理・化学と、地学・生物の一部)については、お母さまもRさん本人も解説が必要と考えていらっしゃいました。

④移動時間については、往復2時間とのことでした。往復時間も単語帳を見るなど活用できればと考えたのですが、座って落ち着いて勉強できない環境であることがほとんどのため、移動時間を勉強に充てるのは厳しそうでした。

③④の状況から、理科は私がオンラインで指導し、社会は自習するという形も検討しましたが、家で勉強しっぱなしだとRさんもお母さまも煮詰まってしまいそうというご意見を伺いました。(確かに夏休みだとずっと家にいることになるので、親子ともしんどいですね。)

ある程度メリハリをつけるためにも塾に行きたいとのご意向でしたので、内容的には問題無く、コマ数についても総ざらいであれば妥当な量である旨をお答えしました。
お母さまとのやり取りの中で、Rさんは、連続で5日間塾に通ってへとへとになってしまったことがあると伺いました。

内容やコマ数は妥当ですが、Rさんの体力や精神力を無理に削ってまで受けなければならないものではありません。そのことをお伝えした上で、最終的には12日間のうち、8日間の講習を受けることになりました。

ちょうど中休みを入れる形での通塾となったので、Rさんもある程度リフレッシュしながら勉強することができました。受験がいよいよ近づく時期ではありますが、休むときはしっかり休むなど、メリハリをつけることも大切です。

夏期講習のご相談と併せて、お母さまからは英検についてもご相談を受けました。
Rさんの第一志望の高校では、英検3級以上を持っていると入試の際に得点として加算されます。ただし、加算と言っても当日のテストに加算されるのではなく、あくまで内申点として考慮されるにとどまるということでした。

英検取得を目指すのであれば、英検のための対策も取らなければなりません。
Rさんの場合、英検加算を目指して時間を割くよりも、当日の英語や他の教科の試験対策に時間を割く方が効率が良いと思われたため、「英検は受けるだけ受けてみる」というスタンスで挑むことになりました。

私立高校の受験制度は多種多様です。英検加算のほか、帰国子女は得点が1割増しで計算されるなどの優遇措置がある場合もあるため、募集要領は隅々までしっかり確認することをおすすめします。

また、入試直前の時期、多くの方が悩まれるのは日々の授業と入試対策とのバランスではないでしょうか。
入試対策だけやりたいけれど、授業をおろそかにするわけにもいかないし…というお悩みはよくお聞きします。

Rさんの場合は、学校の授業のレベルが高く、入試ではまず出題されない問題などもテストや宿題で解く必要がありました。ハイレベルな問題は答えを写す、という対応を英語では既に取っていましたが、入試直前の時期においては英語以外の科目でも同様の対策を行いました。

また、定期テストの前には、無理に入試対策を行わないようにもしました。
定期テスト前に入試のための勉強をしても、テストのことが気になり集中できません。
そのため、定期テストの時期には入試のことは一旦横に置いておき、それ以外の時期で入試対策を行うことにしました。

<Rさんが中3の夏休み以降に入試対策として使う時間>
■夏休み
– {(平日5時間×5日)+(土日2時間×2日)}×6週間 = 174時間
■2学期の中間テスト前~中間テスト期間まで
– {(平日2時間×5日)+(土日5時間×2日)}×4週間 = 80時間
■2学期の中間テスト後~期末テスト期間まで
– {(平日2時間×5日)+(土日5時間×2日)}×4週間 = 80時間
■2学期の期末テスト後~冬休みまで
– {(平日2時間×5日)+(土日5時間×2日)}×2週間 = 40時間
■冬休み
– (平日6時間×5日)+(土日祝4時間×5日) = 50時間

Rさんの場合、計算すると中3の夏休みから入試本番までで約420時間の入試対策ができることがわかりました。

ここから1週間ごとの到達目標を立て、さらに1日ごとにやるべきことを考えていくという、非常に綿密なカリキュラムを作成しました。

このように具体的な計画を立てることで、ただ闇雲に勉強するのではなく、「必要な量を効率的に勉強すれば良いのだ」ということがわかってきます。
あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、といくつものタスクが重なると、情報整理が苦手なADHDの方はパニックになってしまいます。

目の前のことを一つ一つ整理し、今やるべきことは何かを明確にすることが大切です。

日々の授業の中では、「カリキュラム通りに進んでいます」「5時間遅れています」「3時間先取りできています」というフィードバックを行っていました。

また、私が一方的に指導するのではなく、Rさんの側からも、

・この分野は思っていたよりスムーズに理解できているので、早く終わりそう
・この分野はつまずきが大きいので、予定よりもしっかり勉強したい

といった意見を上げてもらい、カリキュラムに細かな軌道修正を加えていきました。
このように勉強の計画を立て実行していく中で、Rさんは緩やかなPDCAを自分で回すことができるようになっていきました。

定期テストの後には、どんな問題で間違いやすいかをRさん自身が把握し、私に伝えてくれました。中学3年生でここまで自主的に計画・実行ができるお子さまはなかなかいません。
私はRさんの成長に感動するとともに、Rさんがもっと伸びていけるよう、指導者としてより一層スキルを磨いていきたいと心から感じました。

入試直前となる2学期の期末テスト後からは、5教科分の3年間の総復習を行います。
全教科・全単元の問題をひと通り解き、「間違えた問題」と「正解したが定着しているか不安な問題」に絞ってもう一度解くことを繰り返して定着を図ります。(問題の横に○△×印をつけることから、「○△×方式」と呼んでいます)

年明けの1月からは、ひたすら過去問題を解いていきます。
ただ解くのではなく、時間を測りながら、本番と同じペースで解けるように練習していくことがポイントです。

Rさんはじっくり考えるタイプのお子さまですので、時間内に解き終わるか少し心配ではありましたが、解く問題と解かなくてよい問題の取捨選択も身に付いてきたため、この点もクリアできそうでした。

また、マークシート式の出題形式がメインの志望校を選びましたので、Rさんの困りごとである文字の書き間違いやケアレスミスも最小限にとどめることができています。

入試前の最後の授業では、これまでRさんが勉強してきた成果を一緒に振り返りました。お母さまから初めて連絡をいただいた中2の頃と比べると、Rさんの困りごとは驚くほど小さくなりました。

積み上げた勉強時間も相当なものになっていて、「私ってこんなに勉強してきたんですね!」と驚いていました。

受験勉強をとおして、Rさんは自分の特性を知り、対策する術を身につけることができました。また、計画を立てて実行し、振り返って次に生かすというPDCAを着実に回していくスキルも自分のものにすることができました。

もちろん、志望校に合格することは大切です。
しかし、私は、受験をとおして子どもたちに「生きる力」と「自信」を身につけてほしいと思っており、そのことこそが教育の本懐なのではないかと考えています。

Rさんは無事に志望校の、志望コースに合格することができました。
そして、受験勉強をとおして、志望校に合格する以上に大切なものを手に入れたのではないかと思います。

最後に、Rさんが合格後に送ってくれたメッセージを添えてこの記事を終わらせていただきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

***
お母さんから連絡があったと思いますが、無事にT高校に合格することができました!最後の授業で先生が、「これまでRさんはこれだけ頑張ってきたんだから、絶対に大丈夫」と、カリキュラムの表や、中2のときからのスケジュールとか見せてくれたので、すごく自信になったし、安心して当日も入試に挑むことができました。

私は英語がすごく苦手で、自分でも何でこんなに出来ないんだろうと落ち込んだり、不安になったりしていました。
でも、妻鹿先生が一から順番に教えてくれたらわかるようになったし、私でもわかるんだと思えたら気持ちがすごく楽になりました。

あと、私が数学の問題で、問題と直接関係ない質問をしたときも、先生が一緒に「なんでだろうね?」と考えてくれたことがとても印象に残っています。
学校の授業や塾だと、一人で考えてしまって答えが出なくて困ったり、考えているうちに授業がどんどん先に進んで置いていかれたりしていました。

一緒に考えてもらって、答えが出せたときのスッキリした感じはめっちゃ気持ち良かったです笑

これから日本に帰って、憧れの高校に通うのがすごく楽しみです。久しぶりの日本で、しかも帰国子女ってからかわれたりするのかなぁとちょっと不安もあったりしますが、せっかく合格したので、高校生活楽しみたいと思います!

本当に、ありがとうございました!!
***

【実例】発達障害のある子の中学受験~ASDとLD併発のS君の場合~
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