【WISC(ウィスク)-Ⅳと発達障害】検査結果の見方、FSIQとDIQの違い、ビネー式やK-ABCとの比較
▼目次
【WISC(ウィスク)の概要・導入】
皆さんはWISC(ウィスク)検査というものをご存知でしょうか。
簡単にいえば、発達障害かどうかをチェックする診断テストのようなものです。(厳密には発達障害かどうかの診断ができるわけではありませんが、大きな目安になります)
乳幼児健診で発達の遅れが指摘されたとき、あるいは学校での様子に気になる点があるとき、保健師さんや学校の先生から「検査を受けてみては?」と言われたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。
多くの場合、この「検査」はWISC検査(幼児の場合はWPPSI、成人であればWASP)を指しています。
主に学齢期のお子さまが受けるWISC-IVは、ウェクスラー式知能検査の1つです。
知的能力や記憶・処理に関する能力を測れる検査であり、70年以上の歴史を持ちます。
国際的にもその信頼性が高く評価されていて、現在世界20数か国で使用されています。
この記事ではWISCに関する詳細な知識と、発達障害・ギフテッドの関連性の順番で触れています。
WISCよりも先に、発達障害に関して知りたい方は、上にある目次の6 【WISC(ウィスク)検査結果から見る発達障害の傾向】から。
ギフテッドに関して知りたい方は、上にある目次の8 【ギフテッドと発達障害】から読んで頂けると幸いです。

発達障害専門の受験プロ家庭教師
妻鹿潤
・個別指導塾の経営・運営でお子様の性質・学力を深く観る指導スタイル
・yahooやSmartNews、Newspicksなどメディア向け記事も多数執筆・掲載中
【どこでWISC(ウィスク)検査を受けられる?】

では、WISC検査はどこで受けることができるのでしょうか。
一般的には、以下の3つの選択肢が考えられます。
・市町村の教育支援センター
・大学や民間施設等
それぞれの特徴は以下のとおりであり、目的に合わせて受ける場所を選ぶことができます。
病院(児童精神科など)
病院では、他の施設に比べて明確な診断を受けることができます。医師による診断書が必要な場合は、必ず病院で検査を受けましょう。
病院によっては「発達外来」や「思春期外来」など、専門の窓口を設けている場所もあります。紹介状が必要な場合もあるので、事前に問い合わせると良いでしょう。紹介状は、かかりつけの小児科でも書いてもらうことができます。
市町村の教育支援センター
市町村の教育支援センターでは、今後どういった支援をしていくべきか、どういった公的支援が受けられるかの参考とするために検査を行います。市町村の教育委員会や福祉部局と連携している場合が多いので、スムーズに支援につながることができます。
一方、教育支援センターでは、必ずしも医師が検査を行うわけではありません。ですので、病院と違ってはっきりとした診断を受けることや、診断書を出してもらうことはできませんので注意してください。
大学や民間施設等
病院や教育支援センターは、場合によっては1ヶ月以上の予約待ちとなることがありますが、大学や民間施設では比較的予約が取りやすいとされています。待ち時間も少ないため、お子さまへの負担も少ないでしょう。
「学校に知られたくない」「通院していることを知られたくない」という事情をお持ちであれば、大学や民間施設は周囲の目が気になりにくいというメリットがあります。一方で、費用が割高な場合もあるので注意しましょう。
いずれの場合も、検査費用や報告書・診断書の作成手数料は施設ごとに異なります。保険適用の可否も様々ですので、気になる方は個別に問い合わせるようにしましょう。
「参考:保険診療の理解のために|厚生労働省」
【WISC(ウィスク)検査を受ける際の3つの注意点】
実際に検査を受ける際には、注意点が3つあります。
まず1つ目は、お子さまの当日の状態です。
検査当日は、あまり疲れていない状況で検査を受けましょう。WISC検査には2時間程度かかる場合もあり、大人でも疲れてしまいます。正確な診断を受けるためにも、お子さまのコンディションには気を遣いましょう。
また、特に発達障害を持つお子さまは、先の見通しが立たないと本来の力を発揮できないケースも多いです。できれば事前に、「どういう理由で」「どんなテストを受けるのか」などを本人に説明しておきましょう。
2つ目は、検査体制です。
例えば、市町村の教育支援センターで検査を受けたいと思っても、年齢制限がある場合がほとんどです。多くの市町村では義務教育期間である中学3年生までと限定されていますし、お子さまの様子や家庭状況と照らし合わせて、「検査不要」と判断される場合もあります。
また、発達障害が社会的に注目される昨今、病院でも教育支援センターでも、予約が常に埋まっていてなかなか検査が受けられないこともあります。たとえ検査が受けられても、検査結果や診断が出るまでにさらに1ヶ月待ちということもあるでしょう。
ただ、検査を受けて診断が出たからといって、すぐにお子さまの状態が良くなるわけではありません。検査を受けることはもちろん大切ですが、あくまでお子さまの状態を知るための「手段」です。
検査がなかなか受けられないときは不安になるかもしれませんが、必要以上に焦らないようにしましょう。
3つ目は、「WISC検査を受けただけでは発達障害であるかどうかはわからない」という点です。
発達障害は、専門の医師による総合的な判断によって診断されます。WISC検査の結果だけで発達障害かどうかがわかるわけではありません。
また、先に述べたように、お子さまの当日の体調によっても検査結果が変わりますし、検査者の技量が検査結果に影響することもあります。検査の結果は毎回変わるものであり、絶対的なものではありません。
「診断書が必要」「手帳を取りたい」といった目的でWISC検査や発達障害の診断を望むこともあるでしょう。しかし、検査や診断を受ける本来の目的は「お子さまの困りごとを少しでも改善すること」ではないでしょうか。
検査の結果や発達障害の診断の有無にこだわりすぎず、お子さまがより良い学校生活・社会生活を送れるように、周りの大人が力を合わせて支援していくことが何よりも大切です。
【4つの指標とFSIQ(全検査IQ)】

WISC検査自体は、お子さまと検査者が1対1で行います。保護者の方が同席することはできません。
お子さまの知能だけでなく様々な特性を検査するために、以下の15項目のテストを行います。(うち5項目は補助下位検査と呼ばれ、必要に応じて行うものです。)
・類似:二つの単語がどのように類似しているかを説明する。
・数唱:検査者が言った通りに数字を復唱する。順唱と逆唱がある。
・絵の概念:共通の特徴のグループを作るため、2~3列に提示された絵の中から一つずつを選択。
・符号:数字と記号がペアになった見本を見て、数字とペアの記号を制限時間内に記入する。
・単語:単語の定義を説明する。
・語音整列:一連の数字と文字を聞き、数字は昇順に、文字は50音順に復唱する。
・行列推理:絵の行列の欠けている部分を完成させるものを、5つの選択肢の絵から選ぶ。
・理解:一般原則や社会的状況の理解に基づいた質問に答える。
・記号探し:記号グループの中に、刺激記号があるかないかを答える。
・絵の完成:絵を見て、欠けている重要な部分を制限時間内に答える。
・絵の抹消:不規則・規則的に配置した絵を見て、目標の絵に、制限時間内に印をつける。
・知識:広範囲の一般知識の話題を扱う質問に答える。
・算数:口頭で出された算数問題に、制限時間内に暗算で答える。
・語の推理:スリーヒントクイズに答える。
「想像よりもたくさんの検査項目があるんだな」と思われた方も多いのではないでしょうか。このたくさんの検査項目のおかげで、その子の得意な部分と苦手な部分を数値化し、より良い支援の手がかりとすることができるのです。
具体的には、「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標とIQ(知能指数)が数値化されます。この指標の凸凹によって、お子さまの特性を見ることができる、という仕組みです。以下ではそれぞれの指標の意味とその数値が低い場合の困難、想定される支援策についてご紹介します。
これから検査を受ける方、検査結果を御自身で分析してみたい方の参考になれば幸いです。
<言語理解指標(VCI)>
・指標の意味
言葉による理解力・推理力・思考力に関する指標です。言葉でコミュニケーションする力や、そこから推論するための力がこれに該当します。
物の名前や言葉を理解しているか、といった検査内容になるので、本の読み聞かせであったり、日常で物の名前を教えたりすることで、比較的伸びやすい能力といえるかもしれません。
・困難と支援策
言語理解(VCI)が低いお子さまは、言葉を理解することや言葉で表現すること、あるいは言葉を使って考えることが苦手といえます。
支援策としては、指示が伝わったかどうかをこまめに確認する、指示はできるだけ短くシンプルに行うなどのフォローが考えられます。
まず、学習面での困難例には、
• ことばを間違った意味で使う
• 文法が不正確な言い回しをする
• 音読していても内容がわかっていない
• 作文の内容が乏しい
• 時間の概念が言葉で表現できない、理解が難しい
といったものが挙げられます。
また、生活面での困難例には、
• 日時や場所などの理解・表現が不十分で、トラブルにつながる
• 事実や感情が言葉で説明できず、誤解されやすい
• 会話に参加しづらい
といったことが挙げられます。
このような困難例に対し、支援策は以下のとおりです。
• 理解できていない様子の時は、何度か指示を繰り返す
• 全体での指示が理解できないときは、個別に指示する
• 絵や図といったイラスト、人形などの立体物などで伝える
• 約束事は紙に書く
<知覚推理指標(PRI)>
・指標の意味
視覚的な情報を把握し推理する力や、視覚から得た情報にあわせて体を動かす力に関する指標です。新しく得た情報への対応力や、新しい課題が生じたときの解決力にも影響する力です。
目で見た情報の理解を中心とした検査で、回答は実際に手を動かして行います。視覚的な情報を適切に処理し、それに合わせて身体を動かせているかを確認するためです。図面を描いたり理解したりすること、あるいは地図を読むのが得意な人は、知覚推理指標が高いといえます。
・困難と支援策
絵や図から情報を読み取ることが難しかったり、見通しを立てるのが難しかったりします。また、ジェスチャーなどの動作で表現することも苦手なことが多いでしょう。
そのため、絵や図から不要な要素を取り除きシンプルなものにする、目的や作業手順をわかりやすく示すなどの工夫が支援につながります。
学習面での困難例には、
• 文章の要約が苦手
• 量を比べるのが難しい
• 形を判別したり、組み合わせで構成したりするのが苦手
• 図形や展開図、見取り図を描くのが苦手
• 表やグラフにまとめるのが苦手
といったものが挙げられます。
また、生活面での困難例は、
• 場所や方角を間違え、トラブルにつながる
• 整理整頓が苦手
• 社会的なルールの理解が難しい
といったものが挙げられます。
このような困難例に対し、支援策は以下のとおりです。
• 頭の中だけで考えるのではなく、模型などを活用する
• 図形の特徴を言葉で説明する
• その場の状況や他人の気持ちをわかりやすい言葉で伝える
• ごっこ遊びやロールプレイにより、対人行動を練習する
• 場所や方向は、上下左右、順序、目印などで言語化して確認する
• 物をしまう場所ごとに色分けし、物自体にも対応した目印をつけておく
• ルールは言葉で丁寧に説明する
<処理速度指標(PSI)>
・指標の意味
視覚で得た情報を処理する速さに関する指標です。マイペースで切り替えが苦手なお子さまは、この指標得点が低くなる場合があります。
決められた物事をどれくらい早く処理できるかを測定する検査であり、ルーチンワークや事務的な作業をどんどんこなせる人は、この指標得点が高い人といえるでしょう。
・困難と支援策
目で見た情報を素早く処理したり、それに基づいて作業を時間内に終わらせたりすることが苦手です。作業時間を調整する、作業を区切りこまめに休憩を取るなど、集中力をコントロールできる環境をつくってあげると良いでしょう。
また、言語理解指標(VCI)と知覚推理指標(PRI)の得点間に差異がみられる場合は「強み」で「弱み」を補うこともできます。例えば、「言語情報の処理は苦手だけれど、視覚情報の処理は得意」といった場合は、言葉での指示ではなく、イラストを用いて指示するなどの工夫が効果的です。
学習面での困難例には、
• 文字を書き写すのが苦手
• 書く時の姿勢や筆記用具の使い方がぎこちない
• 形の似ている漢字を読み間違える
• 計算が遅い
• +-×÷などの演算記号の理解が苦手
といったことが挙げられます。
ADHDのお子様のケアレスミス対策については、こちらに詳細があります。
■「【受験のプロ監修】ADHD注意欠如多動性のケアレスミス対策7選」
生活面での困難例には、
•授業の準備が間に合わない
•板書を写すのが遅い
• 時間内に課題が終わらない
• ペースがゆっくりしていて、同学年集団の遊びについていけない
といったことが挙げられます。
このような困難例に対し、支援策は以下のとおりです。
• 文字を読みやすい大きさにする
• 補助グリップなどを使用し、筆記用具を使いやすくする
• 板書の量を減らす
• 文字を書き写す場合、見本をできるだけ近くに置く
• 持ち物や準備物のチェックリストを作る
• 用途ごとに色分けした目印を持ち物につけておく
• 優先順位を考え、課題を厳選する
• 他学年との交流活動を取り入れる
<ワーキングメモリー指標(WMI)>
・指標の意味
情報を一時的に記憶しながら処理する能力に関する指標です。ワーキングメモリーは読み書き・計算などの学習能力や、集中力に大きく関わるとされています。
複数の情報を同時に処理したり、順序立てて処理したりする能力を測定することで算出されます。
「材料を切る→火を通す→味を付ける」といった手順の処理が必要となる料理のような作業が得意な人や、学校でいえば先生からの指示を理解する力や板書をする力が高いお子さまは、ワーキングメモリー指標が高いといえます。
・困難と支援策
特定の物事に集中することが難しかったり、耳から聞いた会話や指示を一時的に記憶しながら処理することに困難があったりします。また、ワーキングメモリーは読み書き・計算などの能力にも関わりがあるといわれており、学校での勉強に困難がある場合もあります。
話すときは簡潔にまとめる、口頭だけでなく資料やメモを使いながら話す、話し手に注意を向けてから話す、といった工夫が支援につながります。読み書きや計算については、「文章の概要を図で説明する」「計算の過程をリスト化して、それを見ながら計算を行う(計算手順の可視化)」といった工夫が考えられます。

学習面での困難例には、
• 聞いたことをすぐに忘れる
• 少しの雑音でも注意がそれてしまう
• 「っ」や「ゃ・ゅ・ょ」などの特殊音を書き間違える
• ひらがなやカタカナで書けない文字がある
• 簡単な暗算ができない
• 九九の暗唱が苦手
といったものが挙げられます。
また、生活面での困難例には、
• 約束を忘れてしまいトラブルにつながる
• 話を最後まで集中して聞けない
といったものが挙げられます。
このような困難例に対し、支援策は以下のとおりです。
• 平易な言葉でシンプルに伝える
• 理解できていない様子の時は、何度か指示を繰り返す
• 全体での指示が理解できないときは、個別に指示する
• 絵や図、文字や立体物を組み合わせて説明する
• 物事に意味づけをして覚えやすくする
• 過程を細かく紙に書きながら計算させる
• こまめにメモを取るようにする
• 挨拶や定番の言い回しをロールプレイで練習する
<FSIQ(全検査IQ)>
FSIQとは、これまで説明した「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標の合計点を合わせたものから得られる得点です。
つまり、全体的な認知能力を表しており、お子さまの発達が全体のどの程度の水準に位置するのかを知ることができます。
WISC-IV検査においては、各数値とFSIQの平均が100、標準偏差が15となるように設定されています。したがって、FSIQが85~115の範囲であれば平均的な知能であると言えます。
FSIQが85未満の場合は知的能力が平均よりも下回ると見なされ、FSIQが70~85の場合は境界域(※)、69以下の場合は知的障害に該当します。
(※境界域…知的障害には該当しないが、境界線上にある状態。いわゆるグレーゾーンのこと)
FSIQが115を上回る場合は平均よりも高い知能を持っていると言えます。特にIQ130以上の場合は「ギフテッド」と呼ばれ、非常に高い知能の持ち主であると見なされます。
ただし、ギフテッドであるからといって日常生活で困りごとが無いとは限りません。特に、4つの指標のうち「ワーキングメモリー」や「処理速度」が低い場合は、日常生活を送る上で様々な困難が生じやすく、また「知覚推理」や「言語理解」といった他の能力とのアンバランスさから、学校の勉強でも困りごとを抱える場合があります。
ギフテッドの方に特有の困りごとについては、こちらの記事(ギフテッドなのに勉強が苦手?高IQでも学校の成績が悪い場合に親がすべきこと )で詳しく解説していますので、ご関心のある方はご一読ください。
なお、知能指数(IQ)については、WISC-IV検査以外にも「田中ビネー式知能検査」「K-ABC」などでも測定することができます。
田中ビネー式知能検査は、年齢ごとに異なる問題が設定されており(年齢級)、お子さまの実年齢に対応した偏差IQ(DIQ)を測ることができます。
K-ABCは、基礎学力を計る学習習得度の評価を取り入れている点が大きな特徴となっています。学習支援や就学形態を検討する際にも有用であるため、支援の方針を検討する際の参考としてK-ABCを実施している教育委員会もあります。
【WISC-IV(ウィスク)知能検査結果の見方と平均点】
前項では、それぞれの指標が示すものをご説明しました。この項では、それらを踏まえて、実際の検査結果の見方をご紹介します。
評価点(得点)
検査で得られた純粋な点数のことです。
合成得点
評価点の平均を100とし、その上下のばらつき(偏差)を割り出したものです。
WISC検査の結果を見る際は、この「合成得点」に注目します。
WISC-IV検査では4つの指標ごとの合成得点を測ることができますが、合成得点は平均が100、標準偏差が15となるように作られていますので、小学生でも中学生でも、平均は「100」ということになります。また、標準偏差が15であることから、85~115の間に約68%の人が入るということになります。
大まかに言えば「100を超えていれば平均以上、それ以下であれば平均以下」ということになりますが、信頼区間やパーセンタイルといった要素もありますので、WISC検査の結果を見る際には「記述分類」を参考にすると良いでしょう。
- 130以上:非常に高い
- 120~129:高い
- 110~119:平均の上
- 90~109:平均
- 80~89:平均の下
- 70~79:低い(境界域)
- 69以下:非常に低い
ちなみに、旧来の知能テスト(田中ビネー式検査など)では、こうした平均からの偏差ではなく、「その子の精神年齢と実際の年齢の比率」がIQとして定義されています。
精神年齢とは「精神の発達が何歳相応であるか」を表す指標であり、これが実際の年齢からどれくらい離れているかをIQとして測るという仕組みになっています。
実際の計算式は、「精神年齢÷本人の年齢×100=知能指数(IQ)」というものになります。
3歳4か月(40か月)の子の精神年齢が2歳6か月(30か月)相応の場合:
30÷40×100=75
この旧来の知能テストにおけるIQ(ここでは便宜上、「旧来のIQ」と呼称します)は、平均からの遠さ(偏差)を測るものではありません。また、年齢によって平均値にもばらつきがあり、2歳0か月の平均は101、5歳0か月の平均は119となっています。
そのため、旧来のIQを測っただけでは「同じ年齢の集団と比べてどのくらいの位置にいるのか」について厳密に知ることはできず、「IQ100以上であれば、知的な発達は無いものと考えられる」という便宜上の目安のみを示すものになっています。
というのも、ビネー式検査は元々、学習面に問題のある子どもを選別することを目的に作られた検査であり、その子がどんな特性を持っているかや、平均と比べてどれくらい差があるかを厳密に測ることを想定したものではありません。
一方、WISC-IVで測ることのできるFSIQは平均からの偏差を測ることができるため、その子の困りごとの大きさや支援の必要度合いを数値によってある程度測ることができます。
このように、平均からの偏差によって表される知能指数のことを「DIQ(Deviation Intelligence Quotient)」と呼びます。
また、WISC-IV検査では4つの指標も偏差で表されているため、お子さまがどんな特性を持っているのかについても詳しく知ることができます。
近年においては、知能検査は知的な遅れの有無を発見するだけでなく、その人の特性に応じた支援方法を見つけるために実施するものという認識が一般的になりました。
そのため、最新の田中ビネー式(第4版)では、14歳以上においてはDIQが測れるようになり、13歳以下においても旧来のIQからDIQを算出するための換算表がマニュアルに添付されるようになっています。
パーセンタイル
その検査項目について、100人のうち下から何番目かを示しています。
数字が小さいほど発達の水準が低く、大きいほど発達の水準が高いということになります。
例えば、パーセンタイルが「23」の場合、100人中下から23番目、78位の結果ということになります。
信頼区間
数値の信頼度と、そこから推定される数値の幅を示しています。
「FSIQ=118 90%信頼区間 FSIQ=112〜122」とあった場合、「今回測ったFSIQは118だったが、信頼度は90%で、112〜122の間に位置すると推定される」ということになります。
【WISC-IV(ウィスク)知能検査結果から見る発達障害の傾向】
指標間の差が大きい(ディスクレパンシー)と発達障害なのか?
各指標の合成得点の差が大きいと、発達障害の可能性が高くなると言われています。各指標の差が概ね15以上ある場合は、指標間の差が大きいとされ、発達障害の傾向について他の観点からも詳しく診ていくことになります。なお、この指標間の差のことは「ディスクレパンシー」と呼ばれ、所見欄にも「ディスクレパンシーがある」という記述がされる場合があります。
ディスクレパンシーは4つの指標の間だけではなく、下位検査項目の得点差においても重要です。例えば、同じ知覚推理の下位検査であっても、積み木はできるけれど行列の推理は苦手である場合などは、そのお子さまの特性が強く表れていると考えられ、特性の見極めに役立ちます。
ただし、ディスクレパンシーがあるからといって、必ずしも発達障害であるというわけではありません。というのも、ディスクレパンシーは全検査IQ(FSIQ)が高いほど大きくなる傾向にあります。全検査IQ130以上のギフテッドの方でディスクレパンシーが15以上あるというケースはよくありますので、ディスクレパンシーがある=発達障害というわけではない点には注意しておきましょう。
指標間の差が大きかったとしても、困りごとが大きくない場合は発達障害と診断されないケースもありますし、逆に指標間の差が小さくても、日常生活における困りごとが大きい場合は発達障害と診断されることもあります。WISC-IV検査は非常に有効な知能検査ではありますが、それだけで発達障害を診断することはできません。WISC-IV検査の結果は、お子さまの特性を明らかにするための指針であり、あくまで参考であることを念頭におきましょう。発達障害の診断については、日常生活の過ごし方や学校での困りごとなどを総合的に見て、専門医が判断するものになります。
以下では、ADHD、ASD(アスペルガー)、LD(学習障害)などの発達障害に多く見られるWISC-IV知能検査の結果の傾向をお示ししていますが、あくまで一例であり、必ずしも全ての方に当てはまるわけではない点はご承知おきください。
<ADHD(注意欠如多動性)>
処理速度指標の数値が低くなる傾向にあります。
ADHDの特性である多動性や衝動性により、注意力やモチベーションの持続が難しいことが影響しています。指示や会話を聞き漏らしたり、重要な点を忘れてしまったりすることがあるため、ワーキングメモリーも低くなる場合があります。
ADHDの性質や、ADHDの勉強法については詳しくは以下の記事をご参照ください。


<ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)>
ADHDと同じく、処理速度指標の数値が低くなる傾向にあります。
ADHDと同様、多動性や衝動性により注意力やモチベーションの持続が難しいことが影響しているほか、マイペースで作業が遅い、不器用で書くのが苦手、といったことも原因と考えられます。
ですが、パターンが決まっている問題が得意なお子さまの場合、逆に処理速度指標の数値が高くなる場合があります。
また、図形の問題が得意なお子さまが知覚推理で高数値を示したり、記憶や算数が得意なお子さまがワーキングメモリーで高数値を示したりすることもあります。
ASDの性質や、ASDの勉強法については詳しくは以下の記事をご参照ください。



<LD(学習障害)>
LDのお子さまのうち、読むことに困難がある場合は、ワーキングメモリー指標が低くなる傾向にあります。
読むことが困難なお子さまは、耳で聞いた言葉を処理する力が弱い傾向にあり、このことがワーキングメモリーの低さに影響していると考えられます。
また、書くことに困難があるお子さまは、処理速度指標が低い数値になる傾向にあります。処理速度指標の検査には筆記能力を測る要素があるため、この数値が低くなると考えられます。
計算することに困難があるお子さまは、ワーキングメモリーが低くなる傾向にあります。ワーキングメモリー指標の検査には、算数の問題が含まれるためと考えられます。
LDの性質については、詳しくは以下の記事をご参照ください。


【知的障害や発達障害の診断を受けたら】
FSIQが4つの指標の総合点であることは、先にご紹介したとおりです。
お子さまの発達の水準がどの程度かを表していて、一般的には以下のように区分されます。

FSIQが69以下の場合は知的障害に該当するため、療育手帳が取得でき、様々な援助措置(公的サービス)の対象となる可能性があります。
療育手帳の取得方法は自治体によって異なりますので、地域の公的機関(市役所や保健センター)に問い合わせててみましょう。
また、発達障害と診断された場合は、精神障害者保健福祉手帳を取得できるケースがあります。こちらも自治体によって取得方法が異なりますので、市役所や保健センターに問い合わせると良いでしょう。
【ギフテッドと発達障害】
皆さんは「ギフテッド」という言葉をご存じでしょうか。
同世代の子どもと比べて突出した才能を持っていたり、並はずれた成果を出せたりする子どものことを指します。
・ギフテッドの知能指数
アメリカの研究によると、ギフテッドの子どものWISC検査の平均的な数値は
・知覚推理のスコア:126
とされています。
また、一般的にはIQ130以上がギフテッドとされ、人口の2%に当たります。
しかしながら、ギフテッドを知能指数のみで定義することはできません。芸術や音楽、運動の才能を知能テストで測ることはできませんよね。

英才型と2E型
ギフテッドには、英才型と2E型の2種類あると言われています。
・2E型=ある分野では突出した才能を示すものの、苦手なことはとことん苦手なタイプ
お気づきかもしれませんが、このうち2E型は「twice-exceptional(二重に例外)」という意味で、ギフテッドかつ発達障害という状態になります。また、2E型ギフテッドは、マイナス面の印象が強く、周りも本人もその才能に気づいていないケースがあります。
発達障害であれば必ずしもギフテッドであるというわけではありませんが、発達障害も2E型ギフテッドも「発達に凸凹がある」という点では同じです。
発達障害のマイナス面ばかりを見るのではなく、強みを生かすことが、お子さま自身のより良い学校生活やより良い人生につながります。
彼らの能力を最大限に生かすためには、日本の学校教育でありがちな「みんなと同じで画一的」な教育にこだわるのではなく、ひとりひとりに合わせた教育や接し方が必要です。
ギフテッドと発達障害については、以下の記事で詳しくご紹介していますので、ぜひ、ご覧ください。
また、プロ家庭教師メガジュンではギフテッド・発達障害に特化した専門の指導もしております。



他にも、ギフテッド・発達障害のお子さまが勉強で目指すべきゴールはどこかについても、以下の記事で詳しくご紹介しております。
特別な性質があるからこそ、現役のキャリアアドバイザーとしても、最適な進路や勉強をおこなってほしいと思います。
以下の記事がその一助になれば嬉しい次第です。

余談になりますが、日本の文部科学省もやっとギフテッド教育に取り組み始めているようです。
検討が始まったばかりで、アメリカなどの欧米諸国には遠く及びませんが…
■「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」
【最後に】WISC(ウィスク)-Ⅳと発達障害診断について
最後になりましたが、改めて今回の記事のポイントをお伝えします。
・病院や市町村の教育支援センター、大学や民間施設で受検できる
・WISC検査だけで発達障害の診断ができるわけではない
・WISC検査では「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標とIQ(知能指数)が数値化できる
・検査結果を分析することで、お子さまに適した支援方法がわかる
・知的障害や発達障害と診断されると、各種手帳や援助措置を受けられる場合がある
・マイナスな面ばかりではなく、強みを生かす視点が重要
WISC検査をメインテーマとしましたが、検査結果からわかる困りごとやその支援策など、幅広くご説明しました。
検査結果に一喜一憂するのではなく、強みを生かす視点でお子さまを支えていただければと思います。