アスペルガー(ASD)のこだわり例7選|大人・子どもに共通する特徴と対処法
- アスペルガー(ASD)のこだわりって、わがままとは違うの?
- お子さまや身近な人が、こだわりで困っているけどどう関わればいい?
- 「この特性、勉強や仕事に活かせることはあるのかな…」
アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)の特徴としてよく知られている「こだわり」。この「こだわり」は、単なる好みや性格とは異なり、“そうせずにはいられない”という強い内面の働きが関係しています。
私は、発達障害専門のプロ家庭教師として、これまで1500名以上のお子さまの学習や生活を支援してきましたが、アスペルガーのこだわりを無理に抑え込むのではなく、理解し、活かしていくことが支援の大きな鍵だと実感しています。
本記事では、
- アスペルガーのお子さまを育てる保護者さま
- ご自身に強いこだわりがあって悩んでいる大人の方
に向けて、ASDのこだわりが生まれる背景や、具体的な関わり方・対処法を事例とともに解説していきます。
- アスペルガーの「こだわり」と一般的なこだわりの違い
- こだわりが生まれる理由と背景にある不安
- 子ども・大人それぞれに合った関わり方や支援の工夫
- こだわり行動の背景には「強い不安感」があることも。
関連してこちらの記事もご覧ください:
▶︎ 発達障害の子どもが不安を感じやすいのはなぜ?原因と対策を詳細解説
▼目次
アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)のこだわりの理由
アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)の方が物事に強くこだわるのは、一種の「不安の表れ」であると考えられています。
アスペルガーの方は、時間という抽象的な概念を捉えるのが苦手(※)で、未来のことを想像する力が低いとされています。
そのため、不確定な要素をできるだけ取り除きたいという気持ちから、「いつもと同じ」「自分の好きな物だけ」という限定的で強いこだわりが生じるようになります。
例えば、いつも青色の物を選ぶアスペルガーの方は、青がとても好きだから選んでいるというだけでなく、
- 青を選ぶ=いつものこと → 安心できる
- 青以外を選ぶ=いつもと違うこと → 不安になる
という心の働きがあります。
お子さまですと、青以外を選んだ時の不安が抑えられず、「青じゃなきゃ嫌だ!」と癇癪を起こしてしまったりします。
アスペルガーの方は自分の気持ちを言葉で表すことも苦手な傾向にあるため、こだわりが叶わないことで不安を感じていること自体を自分でも認識できず、知らないうちにストレスを溜めてしまうこともあります。
こだわりをいつも優先できるわけではなく、我慢しなければいけない場面もある一方で、無理に我慢を続けると心のバランスを崩してしまうこともあります。
また、こだわりをやめるよう叱責されることが続くと、自分自身を否定されたように感じて自己肯定感が低くなることもあります。
日常生活や仕事で重大な支障が生じる場合はこだわりを抑えることも必要かもしれませんが、精神面とのバランスを見ながら、時にはこだわりを尊重することも大切です。
精神的に落ち着いているようであれば、少しずつこだわりを緩められるよう工夫するのも良いでしょう。(例:5回に1回は青以外を選んでみる→徐々に青以外を選ぶ頻度を増やしてみる など)
- ※アスペルガー(ASD)と時間軸
- アスペルガーの方が時間軸を捉えることが苦手な例として、「過去のことが今の出来事のように感じられる」ということがあります。定型発達の人は過去のことは過去のことであると割り切ることができますが、アスペルガーの方は過去の出来事でも今まさに経験しているように感じることがあり、タイムスリップ現象やフラッシュバックなどにも悩まされやすいと言われています。
ASDの特性についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください:
▶︎ 自閉症スペクトラム(ASD)とは?大人・子供の特徴や診断基準、アスペルガーとの違いも解説
アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)のこだわりの4つの例
アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)の方が強いこだわりを持つことで生じる困りごとは、以下のようなものが挙げられます。
- 自分なりのルールがあり、自分で決めた方法や手順でのみ物事に対処する
- 自分のルールが一番大事で、柔軟な対応ができない。自分のルールを破られると怒る
- 日々のルーティンを守ることに固執し、イレギュラーが起こるとパニックになる
- 特定の物事に狭く強い関心を持つ一方、関心の無いことには全く興味を持たない
- 興味の無いことに対してやる気が出ず、後回しにする
- 勝ち負けに非常にこだわり、負けると機嫌が悪くなる
- 興味のあることに関して過度に集中し、寝食をおろそかにする
アスペルガーの方のこだわりは、大きく2種類に分けることができます。
一つは「いつもと同じであること(ルーティンやルール)へのこだわり」、もう一つは「自分の興味があることへのこだわり」です。
後者の「興味があるものへのこだわり」については、矯正したり、対処法を考えたりする必要はそれほど大きくありません。
電車やバスに興味を持つアスペルガーのお子さまは多くいらっしゃいますが、時刻表を全部覚えたり、全国の路線図を暗記したりしていたとしても、特に生活上の支障は無いはずです。(むしろ、電車博士・バス博士として学校で褒められるかもしれません)
また、興味の形は年齢とともに変化することも多く、数字が好きなお子さまの場合でも、電車の時刻表から円周率、さらに日々の気温や気圧へと興味が変化したお子さまもいらっしゃいました。
「電車の本ばかり読んでいて心配」「もっと色々なことに興味を持ってほしい」という保護者さまもいらっしゃるかもしれません。
ですが、アスペルガーのお子さまは、自分の好きな電車や数字の世界に浸ることで安心を得ている可能性もあります。無理にこだわりをやめさせようとせず、見守ることを心がけましょう。
好きなものを極めることで自信がつくほか、将来の進路選択に役立つこともあります。
前述した時刻表→円周率→気温・気圧へと興味が変化したお子さまは、毎日の気温と気圧の記録を付けた作品が夏休みの自由研究として賞を受賞しましたし、大学では気象に関する研究をしたいと、今は受験勉強を頑張っていらっしゃいます。
アスペルガーのこだわりのうち、特にサポートが必要となるのは「いつもと同じであること(ルーティンやルール)へのこだわり」です。
未来を想像するのが苦手なアスペルガーの方は、自分の想定通りに物事が進むことを好み、ルーティンやルールに固執します。
ですが、生きていく上でイレギュラーは付きものですし、毎日全く同じ日々が繰り返されることはありません。
イレギュラーが起きたときに、パニックにならないようにすること、あるいは、パニックが起きたときにどう対処するかといった視点が重要です。
以下では、ルーティン・ルールにこだわることで起きやすい困りごとの例をご紹介します。
①朝のルーティンへのこだわり|1分ズレるだけで癇癪を起こすお子さまのケース
Aくんは、朝の支度のスケジュールを分刻みで決めていました。
6時50分に起床し、6時55分に歯磨き、7時10分には朝ごはんというように、まさに分刻みで朝の準備を進め、1分でもずれると不安を感じ、5分以上ずれたときはほとんどパニックのようになってしまっていました。
遠足の日や家族で出かけるときには、どうしてもいつもどおりのスケジュールにならないことがあります。
せっかくのお出かけにも関わらず、朝からパニックや癇癪になってしまうため、ご本人や家族にとって非常に大きな困りごとでした。
Aくんの場合は、年齢が上がるとともにこだわり行動が落ち着き、高校生になった現在はパニックを起こすことはなくなりました。
ですが、今でも規則正しい生活は続けているとのことです。
②服装へのこだわり|シャツのボタンを上まで留めないと落ち着かない大人の方の事例
Bさんは、小学生のころ、「シャツのボタンは上まできちんと留めることがルール」と教えられました。
そのため、中学や高校の制服はもちろんのこと、大人になってからもシャツのボタンを一番上まで留めるというルールを守っていました。
特に大きな困りごとはありませんが、夏の暑いときには熱中症のリスクが高まりますし、ファッションの選択肢が狭まってしまうことは困りごとと言えるかもしれません。
③食事のこだわり|カレーもチャーハンも具材を1つずつ分けて食べるこだわり行動
Cさんは食事の際に、食材を一つ一つ選り分けて食べるというこだわりがありました。
例えばカレーの場合、まずはニンジンだけを食べ、次にジャガイモ、肉…と続きます。チャーハンのように具材が切り刻まれていたとしても一つずつ選り分けてから食べるため、食事に時間が掛かるほか、マナー違反として指摘されることもあるそうです。
このこだわりは、アスペルガーの感覚過敏の特性とも関係しています。
複数の食材が混ざり合う味や食感が苦手で、単一の具材だけにしたいと感じるそうです。大人になってからは、場面によって具材の選り分けを行わないようにしているそうですが、食事を楽しめないというストレスは困りごとの一つと言えるでしょう。
④道順へのこだわり|「いつもの道じゃなきゃ嫌!」工事で立ち止まるDさんの対策法
Dさんは、いつもと同じ道を通ることにこだわりがあります。
いつもと違う道を通ってみて新しいお店を発見したり寄り道したりするよりも、毎日同じ道順で通勤する方が、Dさんにとっては心が落ち着きます。
Dさんは、工事などでいつもの道が通れないときに、その場で立ち止まってしまうことが何度かあったそうです。
迂回すべきなのはわかっていても、いつもどおりが良いという気持ちとの葛藤が生じ、工事現場の様子をまじまじと伺ってしまうこともしばしばでした。
そこでDさんは、「いつもの道が通れないときは、この道を通る」というもう一つのルールを作りました。
迂回するとしても、あくまで自分のルールに従っているので、その場で考えた迂回路を通るよりは遥かに心が落ち着くと仰っていました。
アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)のこだわりへの対処法
アスペルガーのこだわりには、強い不安感や安心したい気持ちが深く関係しています。単に「やめさせる」のではなく、安心を保ちながら少しずつ向き合っていくことが大切です。
ここでは、お子さまに対する関わり方と、大人ご自身が向き合う方法を分けてご紹介します。
🧒【① 子どもへの対応編】困り感を減らすための工夫
まずは、お子さまに対する関わりについてご紹介します。
①-1 こだわりが叶わなかったときの対応を想定する
アスペルガーのお子さまは、こだわりが叶わないときに強いストレスを感じることがあります。事前に「こうなったらこうする」という行動パターンを想定し、パニックを避ける工夫をしておくと安心感につながります。
- 5分遅れたらAの行程を省略する
- 30分遅れたらAとBの行程を省略する
- 40分以上遅れたら○○に連絡する
加えて、「○○になったらどんな気持ちになる?」など、感情の予測とことばでの表現もサポートしましょう。
①-2 こだわりを少しずつ緩める練習をする
お子さまが安心している状態で、「少しだけ違う選択をする」経験を積むことで、柔軟性が育ちます。
- スケジュール通りではないけれど、家族と一緒にのんびり過ごす休日の朝
- シャツのボタンを一つ外してみた解放感
- 寄り道して新しいお店を見つける楽しさ
「違っても大丈夫だった」という体験を重ねていくことがポイントです。
①-3 安心感を支えるこだわりは尊重する
無理にやめさせるのではなく、精神的な安定につながるこだわりは可能な範囲で尊重しましょう。
- こだわりがあることで落ち着けるなら優先する
- 周囲の理解を得て、「本人が落ち着く方法」として受け入れてもらう
発達特性に合わせた“うちの子仕様”のサポートを
強いこだわりや不安があるお子さまにも、安心できる学習環境をつくることができます。
専門のプロ家庭教師が、一人ひとりに合わせてサポートいたします。
🧑【② 大人自身がこだわりと向き合う方法】
続いて、大人の方が自身のこだわりと向き合う方法について解説します。
②-1 「こだわり以外」の体験に安心を見つける
大人の方がこだわりに縛られすぎてしまうと、日常生活や仕事に支障が出ることもあります。だからこそ、「あえて違う行動」をしてみる小さなチャレンジが役立ちます。
- 「いつもと違う」を試してみる(違う道を通る、食べたことのないものを注文してみる)
- 「意外と良かった」体験を日記に書き留める
②-2 自分の特性を「強み」として活かす
継続力や几帳面さといったこだわりの側面は、職場や日常生活で大きな力になります。
- 曜日ごとに家事を固定する
- 単調な作業を淡々とこなせる仕事を見つける
- 確実にこなせる分野で達成感を重ねる
「これが自分の得意なスタイル」と自覚することで、自己効力感も高まります。
②-3 周囲の理解を得ながら、自分のペースで工夫する
家族や同僚など、身近な人に自分の傾向を伝えておくと、無理のない環境をつくりやすくなります。
- 「ルールが変わると焦る」と伝える
- 「事前に予定を共有してもらえると安心」とお願いする
他者に助けを求めるのが難しいと感じる方もいるかもしれませんが、「自分が楽になるための工夫」と捉えて、できるところから始めてみましょう。
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以上のように、アスペルガーの方のこだわりには、年齢や立場に応じたアプローチが求められます。
大切なのは、こだわりを「矯正すべきもの」として捉えるのではなく、「安心の拠り所」「強みにもなる特性」として理解しながら、少しずつ生活に馴染ませていく視点です。
- Q1. こだわりをやめさせた方がいいのでしょうか?
- 一概に「やめさせた方がよい」とは言えません。
お子さまの安心感を保つこだわりは無理にやめさせるのではなく、生活に支障が出ない範囲で尊重することが大切です。困りごとが強い場合のみ、段階的に対処を検討しましょう。 - Q2. 大人でもアスペルガーのこだわりに悩むことはありますか?
- はい、あります。日常生活や人間関係、仕事の中で不安や疲れにつながるケースも少なくありません。
「違う行動をしてみる」「周囲に伝える」など、自分なりの対処法を身につけていくことが大切です。 - Q3. 支援を受けるタイミングはいつがよいですか?
- 日常生活や学習面で困りごとが続くと感じたときがタイミングです。
早期のサポートにより、困り感を最小限に抑えつつ特性を活かした成長が期待できます。家庭だけで難しい場合は、専門的な支援も検討してみてください。
アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)のこだわり例のまとめ
この記事では、アスペルガー症候群(ASD、自閉スペクトラム症)のこだわりの例について詳しくご紹介してきました。
改めてポイントをまとめると、以下のとおりです。
- アスペルガーのこだわりは、単なる好みやわがままではなく、本人にもコントロールが難しいもの
- アスペルガーのこだわりは「ルールへのこだわり」と「限定された物事へのこだわり」の2つに分けられる
- アスペルガーのこだわりは、規則正しい生活やルーティンワークといった面で強みになる
- アスペルガーのこだわりは、無理にやめるとストレスになるため注意が必要
こだわり行動によって困りごとが生じる可能性がある一方で、ルールを守ることや規則正しい生活などは、定型発達の人には無い強みになることもあります。
そのため、困り感の度合いと、こだわりをやめることによるストレスのバランスを見極めながら対処することが大切です。
ASDの方は、コツコツと積み上げる学習や、一つのことを追求する姿勢が強みです。
東大・京大といった難関校にはASDやADHDといった発達障害を持つ学生も多く、特性があるからといって社会で活躍できないということは全くありません。(参考:東大・京大合格者は発達障害の性質を持つ人が多い!? 個性を活かした勉強法で難関を突破)
また、医師や弁護士などの専門職の中にも、発達障害の特性がある方はいらっしゃいます。(筆者の知人の弁護士も「知人の弁護士でASD当事者である人が複数人いる」と言っていました)
ですので、日々の困りごともたくさんあることともいますが、その中でも苦手なことだけに注目するのではなく、特性を強みと捉える機会をできるだけ作っていただければと思います。
私たちプロ家庭教師メガジュンでは、発達障害やギフテッドのお子さまを対象に、学習支援や進路のご提案など様々なサポートを行っています。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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