【ギフテッド実例】授業がつまらなくて泣いて帰ってきたK君…宇宙物理学者になりたい小2男子の戦略とは

この記事では、私が受け持ったとあるギフテッドのお子さまの実話をご紹介します。

<ご相談の内容>
【お名前】Kくん
【お住まい】関東地方
【年齢】小学2年生
【在籍校】公立小学校

【お困りの内容】
・学校の授業の内容が簡単すぎてつまらない。「こんな退屈な授業は受けたくない」と泣いて帰ってきたことがある。
・算数の時間にマイナスの概念の話をしたら、先生に怒られた。
・以上のことから登校を渋る日があり、保健室で好きな本を読んで過ごすこともある。
・宇宙に対して非常に強い関心を持っており、大人向けの書籍を好んで読んでいる。記述されている物理式についても理解している様子。

【保護者さまの意向】
・K君の知的好奇心を満たし、高い知性をさらに伸ばしていくためのサポートを受けたい。
・先生との関係を改善し、学校に楽しく通えるようになってほしい。

お名前などは仮名を用いていますが、困りごとやサポートの内容は実際のものとなっていますので、同じような困りごとを感じておられる方や、プロ家庭教師を検討している方はぜひ参考にしていただければと思います。

ギフテッド専門の受験プロ家庭教師
妻鹿潤
・16年以上1500名以上の指導実績あり
・個別指導塾の経営・運営でお子様の性質・学力を深く観る指導スタイル
・yahooやSmartNews、Newspicksなどメディア向け記事も多数執筆・掲載中

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天才児K君の困りごと

天才児K君の困りごと

K君は、幼い頃から明らかに周りよりも賢い子どもでした。

言葉が出るのが非常に早く、読み書きに関しても、幼稚園の頃から漢字交じりの文章を読むことができたほか、数字を扱うのも得意で、小学校に入る前から分数の概念を理解していたそうです。

K君は宇宙に対してとても強い興味を持っていました。
3歳の誕生日に宇宙図鑑をプレゼントしたところ、毎日食い入るように眺めていたため、保護者さまはさらに別の宇宙図鑑もプレゼントしました。

2冊目の図鑑は小学校高学年以上を対象としたもので、大人が読んでも難しく感じる部分があるほどでしたが、K君は飽きることなく図鑑を読み進めていました。

4歳になると、K君は幼稚園に通い始めます。
「最大の恒星は、はくちょう座V1489なんだよ」と、K君は大好きな宇宙の話をするのですが、当然ながらお友達はついていけません。保護者さまや幼稚園の先生はその様子を見て、「K君はとても賢いんだね。小学校に入ってお勉強が始まるのが楽しみだね」とフォローしていました。

「今は幼稚園だから皆と話が合わないんだ。小学校に入ったら面白い勉強ができるんだ」とK君は幼いながらに理解し、小学校での勉強に大きな期待を抱いていました。
ところが、その期待は大きく裏切られてしまうことになります。

小学校に入って習うのは、ひらがなと簡単な計算ばかり。
既に高学年向けの宇宙図鑑を読み込み、分数も理解できていたK君にとって、ひらがなの読み書きや「1+2」のような単純な計算は、退屈以外の何物でもありませんでした。

小学校に上がれば宇宙の話を理解してくれる友達ができて、ワクワクするような勉強もできると信じていたK君は、授業のあまりの簡単さにショックを受け、泣いて帰ってきてしまった日もあったそうです。

保護者さまも、「勉強が簡単すぎる」と我が子が泣いて帰ってくるとは思わず、うろたえるばかりでした。確かに幼稚園の頃から抜群の賢さを持っていることは気付いていましたが、それがK君の生きづらさにつながってしまうのではないかと心配を感じたのは、この時が初めてだったと保護者さまは仰います。

また別のある日、算数の引き算の授業があった日のことでした。クラスの子が「2-3」という式を立てたときに、担任の先生は「小さな数字から大きな数字を引くことはできません。この式は間違いです」と説明をしたそうです。

マイナスの概念を知っていたK君はこの先生の説明に納得がいかず、「小さい数から大きい数を引くことは可能です。この式の間違いを指摘するのであれば『文章題の内容と整合していない』という指摘であるべきです」と発言しました。

すると先生は、「あなたにはその説明が通じるけど、他の子には通じないの。だから発言は控えてほしい」という趣旨の返答をしたそうです。この対応にK君は大きなショックを受け、しばらく保健室登校になってしまいました。

後日、担任の先生から謝罪があり、再び教室に登校することはできるようになったものの、これ以降担任の先生とK君との関係は悪化してしまいました。先生から注意を受けてもK君は口ごたえをするようになり、授業中の立ち歩きもするようになりました。

そのような状況の中で、学校から保護者さまに対し、「K君に通級指導を受けてもらってはどうか」という提案がありました。通級指導とは、知能や発達に課題のある子どもたちが、普段の教室とは別の教室で個別に指導を受けることを指します。

K君は知的に問題があるわけではなく、むしろ賢すぎるのが裏目に出てしまっているのですが、「周りとレベルが合わない」という点においては、課題のある子どもたちと同様、個別指導が適していると学校は判断したのでしょう。

教室にいても立ち歩くか好きな本を読むしかしていなかったため、保護者さまは通級指導を試してみることにしました。
K君には「特別な教室で、あなただけのためのハイレベルな授業が受けられるみたいだよ」と説明したそうです。

通級指導では、小学校高学年~中学生レベルの算数や理科の問題を解いたり、宇宙に関するプレゼンテーションを作ったりして、K君は楽しく過ごすことができていました。
一方で、国語の読解問題や社会(生活科)の問題には興味を示さず、学力にアンバランスな部分が現れはじめました。

また、K君は問題が難しすぎたり、間違えてしまったりすると「もういい!」と拗ねてしまう傾向がありました。
簡単すぎてもダメ、難しすぎてもダメ…ということで通級指導の先生も手を焼いており、「これ以上、学校ではどうすることもできません」と言われてしまったそうです。

保護者さまとしては、K君の突出した部分はどんどん伸ばしてあげたいものの、どうサポートして良いのか分からず、加えて苦手なことや人間関係についてもフォローが必要だと考えておられました。

当サイトをご覧になったところ、「K君の個性に合わせた指導を受けられそう」と感じ、お問い合わせをいただく運びとなりました。

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課題の整理と指導の指針

課題の整理と指導の指針

保護者さまからのご相談内容を拝見し、私は課題を以下のように整理しました。

<K君の課題>①宇宙に関係すること以外への興味・関心が薄い
②間違えることを恐れる傾向にある(プライドが高く、自己肯定感が低い)
③他人と折り合いをつける力を身に付ける必要がある

まず、「①宇宙に関係すること以外への興味・関心が薄い」については、国語や社会への関心の薄さが、今後、学力の伸び悩みにも影響していくことが懸念されました。

K君の場合は、中学校から上位層の学校を受験し、自分と知的レベルの近いお友達と過ごすことが望ましいと考えられます。
ですが、国語を避けてしまい読解力が伸び悩むと、たとえK君の知能をもってしても難関校の中学受験に打ち勝つことは難しくなります。

そこで私は、宇宙以外のものにも広く関心を持ち、あらゆる分野において知的好奇心を発揮できるようにする必要があると考えました。

「②間違えることを恐れる傾向にある」についても、中学受験を乗り越えるためには必ず克服しなければならない課題です。それに何より、その背景にプライドの高さや自己肯定感の低さが見え隠れしているのが気になりました。

自己肯定感の土台が育まれている子どもは、失敗や間違いを恐れず、何事にも堂々とチャレンジすることができます。
逆に、失敗や間違いを恐れる子どもは、「失敗するような自分には価値が無いのではないか」「間違えたら皆から良くないように思われるんじゃないか」という不安を抱えており、それが「失敗する自分を許せない」というプライドの高さにつながってしまう場合があります。

K君の場合、担任の先生とのいさかいをきっかけに、「自分は周りと違うんだ」「自分の方が正しいんだ」という自意識が芽生えてしまったように見受けられました。
そのため、幼稚園の頃のように、他人の目を気にせず純粋に知的な活動を楽しめるよう、メンタル面でもサポートしていく必要があると考えました。

「③他人と折り合いをつける力を付ける必要がある」については、ギフテッドで不登校の傾向にあるお子さまによくアドバイスするものです。
ギフテッドのお子さまは、周りと比べてはるかに高い知能と旺盛な知的好奇心を持っていますので、どうしても学校のクラスメイトや先生と話が合わない傾向にあります。

クラスメイトがとても幼く見えて学校に通うのが億劫になってしまったり、「授業は分かっていることばかりだから、学校に行く意味は無い」と考えてしまったりするのですが、学校に通う意義は勉強ばかりではありません。

ギフテッドのお子さまが学校に通う最大の意義は、「ギフテッドではない人はどんな考え方をして、どのような振る舞いをするのか」を知ることです。

ギフテッドは人口の2%しか存在せず、社会に出てからも周りは非ギフテッドだらけです。そのような中で、自分基準のコミュニケーションを取ってしまうと、意図が通じずストレスを溜めてしまったり、上手く社会に馴染めなかったりする可能性があります。

ギフテッドのお子さまは高い知能を持っていますので、子どもの頃から「普通の人」の振る舞いを知ってさえいれば、言い方や伝え方を工夫し、周りと上手くコミュニケーションを取っていけるようになります。

また、ギフテッドのお子さまはとても素直で、「大人(先生)は自分よりもたくさん知識を持っていて、人格も立派なんだ」と信じている場合が非常に多いです。
ですが、大人であっても子どもより知識の乏しい人もおり、『先生』を名乗っていても人格者とは限らないということを実感するには、(残念ながら)学校は最適な場所とも言えます。

学校は社会の縮図です。
もちろん、子どもの頃から社会に絶望する必要はありませんが、期待しすぎず、「世界とは/社会とは、それなりである」という見方を身に付けるのも必要なことです。

中期的な解決としては、中学受験によって関心や知的レベルの近い友人がたくさんいて、そういった子供達への対応も経験豊富な先生がいる難関中・最難関中への進学が良いと感じました。(難関中・最難関中は大きくは学校がお子様を管理する管理型か、生徒の自主性に任せる自由型。また、学校が大量の課題を出してその課題をやり続ければ最難関大・難関大に行けるタイプの学校か、課題が少なく生徒の自主性に任せる学校に分けられるのですが、K君の場合は自由型の課題が少ない学校と相性が良いと感じました。)

そのため、まずは中学受験の突破を目指して学習サポートを行うことでご了承をいただきました。(他にも、K君に近しいギフテッドのお子様はインターナショナルスクールと相性が良いことも多いです)

次の章からは、以上の課題を踏まえた具体的な指導内容を紹介していきます。

ギフテッドの小学生の5つの特徴と育て方のポイント
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ギフテッドへの指導例①将来の夢を持ち、興味・関心分野を広げる

ギフテッドへの指導例①将来の夢を持ち、興味・関心分野を広げる

K君は天文学や宇宙物理学など、宇宙に関することには幅広い知的好奇心を持っており、宇宙に関係の深い算数や理科の勉強には楽しんで取り組んでいました

一方で、文学や歴史といった宇宙との関連性が低い分野に対する興味が薄く、国語や社会の勉強を避ける傾向にありました。

K君は勉強自体はもちろん苦手ではなく、読解力や記憶力も年齢相応以上の力があります。課題は「興味の薄さ」のただ一点であり、国語や社会にどのように心を向けてもらえるかがポイントでした。

そこで私は、星座に関連するギリシャ神話や、ギリシャの歴史などを紹介してみました。ギリシャ神話についてはK君も図鑑などで知識があったようですが、あまり興味が湧かない様子でした。

ギリシャの歴史に関しても全く関心が無いようで、紹介してもほぼ無反応に近い状態でした。確かに、ギリシャの歴史には身近さが感じられず、小学生には関心を持ちづらいものだったように思います。

そこで私は発想を変え、アインシュタインやスティーブン・ホーキング博士など、宇宙に関係の深い学者たちの伝記を紹介してみました。すると、K君は大いに興味を持ってくれ、本を紹介した一週間後には、私よりはるかにアインシュタインに詳しくなっていました。

「伝記は面白かった?」
「うん、すごく面白かった!僕も宇宙物理学をやりたいと思った!」
「よし、じゃあ、どうすれば宇宙物理学者になれるか考えてみよう」

私は、学者になるまでの道筋について、図を描きながら説明していきます。

学者になるためには、大学に行かなければならないこと。
大学に行くためには、たくさん勉強しなければならないこと。
算数や理科以外にも、国語や社会、英語の勉強も必要であること。

順を追って説明すると、K君はすんなりと理解してくれました。
興味が無かった国語や社会の勉強も、「宇宙物理学者になる」という目的のためには必要なことであると理解し、これからはしっかり取り組んでいくことを約束しました。

併せて、目の前の第一関門である中学受験についても説明しました。K君はこの時点でまだ小学2年生になったばかりでしたが、なぜ中学受験を目指すのかを理解できる素地があると考えたからです。

お子さまによっては気疲れが先行して無気力になっている場合もありますので、やみくもに目標を持たせれば良いわけではありません。ですが、K君は今、漫然と日々を過ごしている状態にあったため、まずは目的を明確にし、気持ちを奮い立たせてもらうことを優先しました。

偉人の伝記をきっかけに、意志を持って日々を過ごすことができそうなK君。
第一段階はこれでクリアできたと感じました。

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ギフテッドへの指導例②間違いを恐れずチャレンジするための土台「自己肯定感」

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保護者さまから事前に伺っていたとおり、K君は間違えてしまったり、解けない問題に当たったりすると、途端にやる気を無くしてしまうようでした。

「間違えても良いからチャレンジしよう」と声を掛けてみても、プライドが邪魔するのか「もういい」とそっぽを向いてしまいます。

機嫌が悪くなった状態で無理に勉強を続けると、勉強そのものが嫌いになってしまい、講師に対する信頼度も下がってしまいますので、その日は勉強を早々に切り上げ、学校の様子や宇宙の話などをして過ごしました。(この頃のK君は、宇宙よりもアインシュタインに興味津々で、相対性理論の話を意気揚々と語ってくれました。)

日を改めた次の授業で、私は以下の3つの問題を用意しました。

①K君であれば簡単に解ける、低学年の教科書レベル問題
②K君の実力相応の、中学生の応用レベル問題
③難易度が高いものの、小問(1)(2)が誘導になっている発展レベル問題

まず①の問題を解いてもらうと、K君は「何でこんな赤ちゃんみたいな問題を解かせるんだ」という顔をしています。
ですが、授業が始まったばかりということもあり、K君は不機嫌にはならず、すらすらと解いてくれました。

そこで私は、「どんな問題でもしっかり取り組めるK君はさすがだね」と声掛けを行いました。正解に辿り着くことだけでなく、どんな問題にもチャレンジすることが大切であるとK君に気付いてもらうという狙いがあります。

次に、②の問題を解いてもらいます。②はK君が最も楽しく解ける問題のレベルであり、機嫌よく解いてくれました。この時には、「中学生の問題が解けるのはすごいこと。自信を持ってね」と声掛けします。
次に難問が待ち構えているので、勢いをつけてもらう狙いがあります。

さて、③の問題です。小問(1)は解くことができましたが、小問(2)になると筆の進みが遅くなり、書いては消し、書いては消しを繰り返していくうちにK君の顔が曇っていくのがわかりました。

「ヒントか、答えを見るか、どっちが良い?」
「うーん、ヒント!」

2段階に分けてヒントを出し、ようやく小問(2)の答えを書き込んだK君。ですが、小問(3)にチャレンジする気力は起きないようでした。

「難しい問題なのに、(2)までよく挑戦できたね」
「でも…」

(3)が解けていないことで拗ねかけているK君に、私は重ねて声を掛けます。

「(2)のヒントを出したとき、2つの辺の長さの比に注目することができたよね。その発想は素晴らしいよ。あと、(1)の解き方もすごくきれいで鮮やかだよ!」

実際、K君の年齢で問題③にチャレンジできるだけでも凄いことです。
できないことを指摘するのではなく、できていることに注目して褒めることを心掛けます。

「さあ、先生と一緒に答えを確認してみよう。K君ならきっと理解できるよ」

模範解答を見てみると、K君の(2)の答えは誤っていることがわかりました。K君はいっそう落ち込んだ様子で、この世の終わりのような表情をしています。
K君にとっては一つ一つの問題が自分の知性を証明するための大勝負で、間違えることは許されないのでしょう。

悔しさを良い方向のモチベーションへとつなげていくために、私はK君の価値観を否定しないように気を付けつつ声掛けを続けます。

「さっき先生が言ったように、(2)までチャレンジできるだけでも凄いこと。(3)にも手を付けていたら、もっと点がもらえたかもしれないね」
「(2)で間違えているのに?」
「もちろん。K君の目指している中学校は記述式だから、途中式を書くだけでも部分点がもらえるよ」

『正解こそ全て』と思っていたK君は、目を丸くして驚いています

そこで私は、京都大学に関するある逸話(都市伝説めいたもので、真偽のほどは分かりませんが)をK君に伝えました。

<京都大学の入試に関する逸話>
受験生Aと受験生Bは、入試の点数が全く同じだった。だが、定員は目一杯だったため、どちらかを必ず不合格にしなければならない。
そこで教授たちは、それぞれの解答用紙を光に透かし、消しゴムで消した跡まで採点することにした。

結果、受験生Aの解答用紙には途中式を書いた形跡があったため、受験生Aを合格させた。

正解に辿り着くことも大切ですが、そこまでの過程の方がより重要であることを、私はK君に繰り返し伝えました。

後々聞いたことですが、通級指導の先生は問題が解けた時は褒めてくれるものの、解けなかった時のフォローが無く、K君は「解けなければダメなんだ」と感じていたそうです。(一般的な公立小学校の先生に、高難易度の問題のフォローを求めるのも難しいのかもしれませんが…)

K君は、この日の授業をとおして、結果だけでなく過程にも意味があることを理解してくれました。
間違えたり、問題が解けなかったりしてショックを受ける様子はしばらくの間は見られましたが、「間違えても、それまでの過程を褒める」という指導を続けた結果、間違いを恐れず果敢に挑戦することや、失敗を振り返って次につなげる姿勢を徐々に身に付けていくことができました。

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ギフテッドへの指導例③具体から抽象を導き出す思考力を鍛える

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皆さんは、中学受験において最も必要な能力は何だと思いますか?

記憶力や思考力、コツコツ勉強を続ける粘り強さ、プレッシャーに負けない精神力など、いろいろな要素が思い浮かぶのではないでしょうか。

私が考える中学受験で最も大切な能力は、「具体から抽象を導き、一般化して考える力」です。
単なる思考力・判断力ではなく、この“一般化する”という思考プロセスが中学受験では最大のカギになると言っても過言ではありません。

専門的な内容になりますので、もう少し具体的に説明していきます。

中学受験の合否は特に算数で決まることが多く、算数は大量にある特殊算の技術を使いこなせるかどうかで決まります
つるかめ算、旅人算、流水算などは耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。(保護者さまが中学受験経験者の場合は、お馴染みかもしれませんね)

特殊算を「使う」のと「使いこなす」のでは雲泥の差があります。「これはつるかめ算の問題ですよ」と明示された状態で、指示に従ってただ計算をこなすのは、特殊算を『使っている』だけです。
特殊算を『使いこなせる』というのは、大きく分けただけでも20種類以上もある特殊算を全て原理から正しく理解し、それぞれの問題の中からどの特殊算を使えば良いのかを判断し、適切に計算まで落とし込むことができる状態を指します。

難関中学校の入試問題になると、パッと見ただけではどの特殊算を使えば良いのか分かりません。また、一種類だけではなく、複数の特殊算を組み合わせて解かなければならない問題も当たり前のように出題されます。

そこで必要なのが、特殊算の計算方法(具体)を覚えるだけではなく、その本質(抽象)を理解し、問題文に当てはめて使う(一般化)という能力であり、これこそが私が中学受験で“一般化の力”が必須と考える理由になります。

さて、ギフテッドのお子さまの場合はどうでしょうか。

ギフテッドのお子さまは非ギフテッドのお子さまと比べて、この“一般化”の能力が高い傾向にあります。
とはいえ、ギフテッドと一口に言っても、記憶力が良い子・感性が豊かな子・言語理解に優れた子など、一人一人の特性にはバラつきがあり、誰もが“一般化”の能力に優れているわけではありません。

また、中学受験に特化した“一般化”のテクニックもあります。
いくら地頭が良かったとしても、これらのテクニックを一切習わずに中学受験に挑戦することは無謀と言えます。

つまり、ギフテッドのお子さまにとっても一般化の能力を伸ばすことは非常に重要であり、それぞれの特性に合わせた指導が必要である、ということになります。

さて、この記事でご紹介してきたK君は、元々一般化の能力が平均より高く、低学年段階から受験に特化したトレーニングに取り組む必要は無いと感じました。(それよりも、前述の「幅広く興味を持つ(短期的には中学受験への関連分野に網羅的に興味を持つ)」「失敗を恐れない」という姿勢の習得を優先して行うべきと考えました)

そこでK君には、高学年になって本格的に受験勉強に取り組む前の下地として、「一般化して考える習慣」を付けてもらうようアドバイスしました。
例えば、夜空に輝く恒星には、赤く見える星や青白い星など、いろいろな色のものがあります。これらの色は、星が燃えている温度が高いか低いかによって異なり、温度が低い星ほど赤っぽく、温度が高い星ほど青白く光ります。

この「温度が低いほど赤い/高いほど青白い」という原則は、地球上で炎が燃えるときに温度によって色が変わるのと同じです。

「仕組みの元をたどっていくと、意外なところで他のものとつながる」というのはまさに一般化の思考であり、K君には「物事の本質を理解し、他にも適用できないか考える」というプロセスについて、雑談を交えながら徐々に身に付けてもらうことを目指しています。

K君の受験勉強が本格的に始まるまであと少し。
K君がどんな成長を見せてくれるのか、どんな風に夢を叶えていくのか、私も今から楽しみにしています。

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最後に~保護者さまの関わりとアインシュタインの言葉~

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K君の保護者さまは、K君の特性について非常に理解が深く、私の提案した指導方針についても快く承諾してくださいました。

また、指導を続けるにつれ、学校でのK君の問題行動も少なくなり、担任の先生との関係も改善できたと伺いました。

K君に近いギフテッドのお子様は大都市圏に在住であれば、4-5年生になり最難関中志望のクラスに入ると、「はじめて全力で話せる友達ができた」と言われることも多いです。

最難関中を目指すクラスとなると、K君に近いお友達も多く、またその授業を受け持つ先生もK君のような子供達を対象に楽しい授業を展開することも多いです。(反面、4年生になるまでの学年や大都市圏でなければ、クラス分けがあまりないため、「学校より少し賢いクラス」とK君が満足しないことも多いです)

以前のK君は「自分に厳しく、他人にも厳しく」という状態で、担任の先生の間違いも許せなかったのだと思います。

ですが、誰にでも間違いはあること、失敗は成功へのプロセスであるということをK君は勉強を通して実感し、「なぜ先生と意見が違うのか」を俯瞰的に見られるようになったと言います。

K君のご両親は、お二人ともお忙しくお仕事をされています。
「妻鹿先生の指導やアドバイスは、本来であれば親である私たちがしてあげたいのに、仕事が忙しくて…」というお言葉をお聞きしたこともありましたが、保護者さまがK君を思う気持ちは十分伝わっていますし、私どももプロ家庭教師として矜持を持って指導に当たっていますので、何も後ろめたく感じる必要はありません。

つい最近、K君は私に言いました。

「アインシュタインの『失敗や挫折をしたことがない人とは、何も新しいことに挑戦したことが無い人のことだ』っていう言葉、僕の勉強にも当てはまるんですね」

私は、これまでの指導が実を結んだようで、思わず感極まってしまいました。
“挑戦”とは、相対性理論を発見するような偉業だけを指すわけではありません。

初めて目にする問題に向かうとき、新しい本のページをめくるとき、一人で電車に乗るとき…子どもたちの世界は、日々“挑戦”にあふれています。

失敗や挫折は、挑戦したからこそ得られる勲章のようなものです。
K君にはどんどん新しい挑戦をして、どんどん失敗や挫折を経験して、大きくたくましく成長してほしいと願います。

また、この記事でご紹介した指導例は、ギフテッドや発達障害、定型発達に関わらず活かせるものとなっています(まさに“一般化”ですね)。
お子さまの指導や受験勉強でお悩みの方は、ぜひ参考にしていただければと思います。

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確かな経験を持った講師たちと一緒に、全力でサポートさせていただきます。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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